結婚いたします。

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「っ………、うっそ……」 思わず、息を呑んだ。 そして次に口から出てきたのは「嘘」という言葉。 本当に、嘘みたいな光景だった。 畳の上に赤い敷物が敷いてあって、その上に静かに鎮座する白無垢。 両脇には、和紙の照明が灯してある。 …なんて、 なんて美しい着物なの。 凛として、荘厳。 「どうぞ、お近くでご覧になってください。」 沙奈恵さんに促されて、そーっと、そっーと着物に近づく。 わぁっ………… 近くで見ると、ますます素晴らしい。 沙奈恵さんは白無垢のそばに膝をついて、丁寧に説明をしてくれた。 「二条の白無垢は当然のことながら正絹で出来ています。ほら、優しい白色でしょう?上品かつ、しなやか。光沢感があるのもこの生地の特徴です。」 「織り方は緞子(どんす)。重厚感のある仕上がりになります。」 「そして刺繍は相良刺繍です。これは職人の技術と時間を要する技法で、立体的で豪華な刺繍になるんですよ。」 「柄は“扇”と“鶴”、それに“桜”です。それぞれ意味がありまして、まずこの大きな扇には『繁栄』という意味が込められています。二条は商売の家なので、これからもお家が栄えるようにと意味を込めたのでしょうね。」 「そしてこの、翼を広げた鶴。『鶴は千年亀は万年』と言いますでしょう?鶴は長寿の象徴。そして、『夫婦円満』という意味もあります。ご存知ですか?鶴の夫婦は一生を共にするそうですよ。」 「最後に、この散りばめられた桜。『新しい門出』という意味をもち、花嫁にぴったりですね。」 「そして、この赤ふき。深い色で、目を引きますでしょう?この赤には災いを防ぐという意味があるのです。」 沙奈恵さんはここまで説明すると、ゆっくりと立ち上がって、一歩後ろに下がった。 「二条家が代々大切に管理してきた大切な着物です。もしお気に召しましたら、ぜひ。」
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