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こんなデスゲームならむしろ参加したい
『喜びの間』。
ここはパートナーが成立した二人が巣立つことを祝う部屋である。
牧瀬信正と畑中雫は手を繋いで立っている。
白い壁に囲まれているのは『嘆きの間』と同じであるが雰囲気はがらりと正反対だ。
教会のような厳かな雰囲気に包まれ、白い女神像が祝福をするように優しく牧瀬と雫を見下ろしている。祭壇前では相変わらずの格好で首謀者の男性が佇んでいる。その左右には白いローブを纏った付き人が二人いて、優しい視線を送っている。
「おめでとう。心から祝福を送ろう」
首謀者は祝福の拍手を送る。付き人たちもそれに倣う。牧瀬と雫は互いの顔を見つめ微笑み合う。
「末永く幸せに。その固く握った手をどんなことがあっても離さないと誓うか?」
首謀者は牧瀬を見つめる。
「はい。誓います」
初日とはもはや別人のような表情を浮かべた牧瀬が、力強く頷く。
続いて首謀者は雫を見つめる。
「はい。誓います」
雫の可憐な笑顔を見て、一層表情を引き締める牧瀬。
「では最後に、二人への贈り物だ」
その時、祈りの歌がたゆたうように流れる。
優しく見守るように二人の門出を祝う歌。静謐なメロディの中、付き人が二人にペアリングを手渡す。それには小さな可愛らしい天使が彫り込まれている。
「これは互いの結束をさらに強固にする力が宿っている。それを相手の左手薬指に嵌めてあげなさい」
まずは牧瀬が雫の細い綺麗な薬指にリングを嵌める。
次に雫が牧瀬のやや太い薬指にリングを嵌める。互いのリングは測ったかのようにピッタリだった。
「これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
互いのリング交換が終わったタイミングで首謀者が口を開く。
「君たちは未来の幸福を手にしたのだ。かけがえのない幸福だ。それは一生消えることなく更なる未来へ続いていく。さあ、門出のときだ」
訪れる旅立ちのとき。
部屋に白い光が差し込む。その光に向かって静かに二人は歩む。
ふと、牧瀬が立ち止まる。それに合わせ雫も立ち止まる。
「一つ、いいですか」
振り返り、首謀者を見つめる牧瀬。メロディーから美しい女声が聴こえる。思わずうっとりしてしまうほど美しい声音。まるで聖母マリアの囁きのように。
「この施設の目的はなんですか?」
首謀者は一瞬きょとんとするが、すぐに言葉を整理し声に出していく。
「君たちのようなボジティブの伝道者を下界に送り出すことだ」
首謀者は続ける。
「えてしてネガティブな感情は簡単に世に広がる。それに対してポジティブな感情は中々広がらないものだ。たとえ広がったとしてもすぐにネガティブに覆い隠されてしまう。このままでは下界は暗くどんよりした雲の下でいつしか滅びるであろう。
だから私はこの施設をつくった。ポジティブの伝道者で下界にポジティブを広げそれがさらにポジティブを生む。それにより下界に未来永劫の幸福をもたらそうと考えた。
幸福を探求する歩みはいついかなる時も止めてはならないのだ。
塞ぎ込むこともあろう。暗い出来事が続くこともあろう。絶望することもあろう。しかしその時こそポジティブでいることが何より重要なのだ。
そのためには君たちのような伝道者がいないといけない。君たちがここで勝ち得た幸福を少しでいいから下界の人々に分け与えてくれないか。それが人々を幸福にしさらに幸福の輪が広がるであろう。世にはびこるネガティブを追い払うために。
そして伝えてくれないか――」
結びの言葉は、ちょうど祈りの歌のクライマックスと重なり牧瀬と雫の耳には届かなかった。
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