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「いってー!おま…、酷いね、相変わらず酷いよね、結構痛いんだけど!…あ、ほら見てみろよ血が出てる!」 35過ぎたオジサンが血くらいで騒ぐなよ。 「痛いよー酷いよー俺なーんもしてないのにボールペンで刺したよー」 なーんもしてないわけないだろ! 「尖ったボールペンは凶器ですー、酷いよー痛いよー血が流れてるよー」 …耳元で囁くなんて奇行に出たからでしょ。 「あー痛いよー、あ?マジ止まんねーんだけど」 後半ガラッと変わった声色に、咄嗟にやり過ぎたかも!と慌てて視線を隣の男に向ける。 …チッ。 「だめだよー、女の子は舌打ちなんてしないんだよー」 チッ。 「あ、またしたー。騙されたお前が悪いんだよー、そんなのに引っ掛かるお前が悪いんだよー」 …ホントムカつく。 「騙された、騙された、お前が悪い俺じゃない。騙された、騙された、騙されちゃったお前が悪い俺じゃない」 節までつけて歌い出す馬鹿男。 しかもやたらと楽しそうにノリノリで歌っている。 なんでこんな奴が隣の席なんだろう、 なんでこんな奴と仕事しなきゃならないんだろう、 なんでこんな奴が先輩っていう存在なんだろう、 なんでこんな奴が…チッ、 どうしても舌打ちしてしまう。 もう、癖みたいなもの…良くないけど。 リピートしまくりーとか自分で言いながら声高らかに歌い続ける馬鹿な男に、ムカつきを通り越してすっごく腹が立つ。 ボールペンが凶器? ふざけるな、そんな先が丸いボールペンが凶器になるわけないだろうが! 尖ってる? よーく見てみろ!このボールペンは新品。今から使おうとさっき袋から取り出したんだから。だからボールペンの先には樹脂のようなもので出来た、丸い球が付いている。それのどこが尖っている? 横目でギロリと睨んでみる。 隣の馬鹿男は、キャスター付きの椅子に座ったままクルクル回ったり、サーっと滑り他の同僚の席へ移動したりしている。 同僚達はこんな光景に見飽きているせいか、やれやれといった表情。 チラチラ私の方に視線を投げかけ、ニヤリと意地悪そうな顔で笑うのが、なんとも頭にくる! どうしてくれよう。 この怒り…。 私は自分のデスクに置かれていた分厚いバインダーを手に取る。 タイミングよくサーッと後ろ向きで戻ってくる馬鹿男。 ナイスタイミング。 さあ、こっちへいらっしゃい。 バインダーを手にしたまま振りかぶる。もちろん、金具部分で狙いを定めて。 いざ! その手を振り下ろそうとした瞬間、私の隣から白くて細い腕が馬鹿男の背後にスッと伸びた。
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