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ずっと一緒にいる事で、甘えが慣れに変わっていったんだ。 それはバディを組む同僚として1番してはいけない事。 尊敬する人に対して、絶対にそのラインは越えてはいけなかったのに。 ゆっくりと発進させたロビンの車は、自分のコンパクトカーよりずっと大きく運転するのは怖い。 いつもより慎重にハンドルを握る。 先回りした駐車場、さて、何処に止めるか? 帰宅を急ぐ人がどんどん出てくるから様子を伺いながら外灯からちょっと離れたフェンス沿いに駐車した。 ちょうどワンボックスカーと外車の間だからそんなに目立たないだろう。 ロビンはまだ来ない。 そうやって待っていると、左隣のワンボックスカーの持ち主が来たらしくロックが外れる音がした。 目の前を背の高い男性が横切っていく。 なんとなく目で追っていると、運転席のドアを開けようとして立ち止まった。 ちょうどその時メールの受信音が鳴り、助手席に置いてあるボディバックからスマホを取り出していた。 いきなりコンコンコン、と運転席側の窓が叩かれて飛び上がるほどビックリする。 ハッと目を向けると男性が覗いていて、 「すみません」 と、私に声をかけてきている。 いきなりの事に驚き心臓が激しく打つ。 「っ、あ、はい」 ビクビクしながら返事を返すと、 「…助手席から布出てますよ、赤い布」 その言葉にハアっと安堵の溜息が漏れた。 私が御礼を言って頭を下げると、いいえーと言いながら車に乗り込んで帰っていった。 親切な人だったな。 そう思いながら助手席に無造作に丸まっているマフラーを引っ張る。 あーあ、ホントだ挟まってる。 さっきあの2人の後をつけようと思って降りようとした時だ。 あの時、膝に置いておいたマフラーが落ちそうになってた事に気づかなかったんだ。 そのあとロビンにドア閉められて、急いで車内を移動したからマフラーの存在すら忘れていた。 出入り口を見てもロビンはまだ来ない。 大判の長めのマフラーはけっこうお気に入りで重宝しているアイテムだ。 挟まっているのは悲しい。 身を乗り出しても当然助手席のドアには届かず、そんな横着した自分に苦笑いする。 ガチャ。 運転席でドアロックを外し、よいしょっと掛け声をかけながらロビンの車から外に出た。 助手席に周ってみると、マフラーはかなりの長さが挟まっている。 「うわー、」 ドアを開けマフラーを手にして、挟まっていた箇所をそっと撫でる。 ああ…なんか生地のふんわり感が凹んだようになっている。 その時、 「お疲れ様です」 背後で女性の声がした。大方従業員なのだろう。 「あ、はい、」 降りかえりながら返事をし、 お疲れ様です、と続けようとしたのに言えなかった。 凄い力で腕を引っ張られた。
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