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静まり返った暗闇の中、月明かりを背に私にのしかかる兄妹。 そんな時微かに携帯の着信音が遠くで聞こえた。 ああ、ロビンかもしれない。 「ちょっとおとなしくしてって言ったじゃない!」 いきなり暴れ出した私を妹は慌てて押さえつける。 と、同時に 「もう限界だ、コイツは無理だよ」 兄が妹に諦めよう、と小さな声で言う。 「どうしてもあたしと付き合うのは嫌なの?」 そう問いかけた妹を真っ直ぐに睨んで大きく頷いた。 「…あっそう…そんなにアイツが良いんだ。…あんなヤツが、…お兄ちゃんそれ貸して」 妹は兄が手にしているナイフを取り上げた。 「やめとけ、他にもっといい女見つけてやるから」 「…気が済まないからちょっといじってやる」 妹の表情が険しくなり、ナイフがその手に握り締められる。 カチャカチャン、とナイフが鳴り、 「たった今、あんたなんて大っ嫌いになった」 スッと目を細め私を見下ろすと、銀色の刃先を私に真っ直ぐに向ける。 ヒッ、 条件反射のように目をギュッと閉じた私の耳元でジャキン、と金属音が鳴った…。 ジャキン、ジャキン。 冷たい金属音。 クスクス笑う妹の楽しそうな鼻歌。 私は恐怖で動けなかった…。 どのくらいの時間が経ったんだろう。 蹲ったまま、体が強ばり固まったまま私は未だに動けない。 ああ、ロビン心配してるだろうな。 お説教って言ってたっけ。 すっごい怒られるんだろうな。 ここに居たらロビン見つけてくれるのかな、 でも見つけられちゃっても嫌だな、 どうしたら良いんだろう…どうしたらいいのかな…。 もう動く気力もなかった。 助けを求める事も、 自由になった体で声をあげる事も、 何も出来ないこんな自分が嫌で嫌で嫌で、涙は止まらなかった。 「リリィ」 その声にビクッと固まる。 小さく体を丸め蹲る私の後方からロビンの声がする。 「リリィ、やっと見つけた」 そう言って走り寄る足音を聞いた瞬間両手で頭を覆った。 「リリィ、大丈夫か、何があっ…」 駆け寄ったロビンが私のすぐ側で足を止め、言葉を飲み込んだ。 「リリィ、怪我してるのか?手、触るぞ」 静かにそう言ったロビンは私の手にそっと触れるとそーっと撫でる。 「リリィ、」 頭を守るように覆った私の手をゆっくり何度も何度も優しく撫でてくれる。 もう無理だった。 自分の嗚咽が漏れたのを自分の耳で聞いた時、私はロビンの手を振り払うように地面に泣き崩れた。
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