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洗面所で鏡に映った自分を見た瞬間、想像以上の酷さでまた涙が出た。
「リリィ、…彩綾、こっち向いて…そう、俺の方見て、そのままね」
ロビンは私の名前を呼び向き合うと、私のバラバラになっている髪を撫でた。
あの時、地面に押し付けられナイフをむけられていたあの時…彼女は兄からナイフを受けとると刃先をハサミに変えて私の髪を切り刻んだ。
短い部分は、頭の天辺にほど近い部分で切られている…。
元の長さそのままの部分もあったけれど、ここまで切られたらどうする事もできない…。
「髪、可愛くしようか」
「…っく、」
「俺が切ってもいい?」
「ロビン…、」
「落ち着いたらボスの知り合いに腕のいい美容師がいるからちょっと手直ししてもらおう」
「…うん、」
頷いた私にそっと微笑むと、
「良い子だ彩綾、そのまま俺を見てて」
そう言って不揃いな不恰好な髪を優しい手つきで丁寧に扱ってくれた。
「お風呂入っといで」
「うん、」
髪を切り終えてもロビンと向き合ったままの格好で、ロビンのセーターの裾を握ったまま。
けっこうな時間が経っていると思う。
それでも動く事ができない。
「彩綾?」
「うん…、なんか…もう、」
言葉にならない。
お風呂に入って綺麗にしたいのに、そうすることが面倒だと思ってしまう。
どうしてこうなったのか説明しなきゃならないのに、言いたくないような、どうでもいいような、そんな気になってしまっている。
「このまま…目を瞑って、寝て…明日になったら全部…夢だったらいいのに、」
ゆっくりと小さな声でそう言った私に、そうだな、と同意しながら髪を撫でてくれる。
短くなった髪をそっと撫でてくれている。
「体冷え切ってるから温まろう」
「うん」
「お風呂から出たらゆっくりしよう」
「うん」
それでも動けない。
この言葉で表現出来ないもどかしい心情をきっとロビンはわかってくれたんだと思う。
動きたくてもそう出来ない今の精神状態を汲んでくれたんだと思う。
「一緒に入ろうか」
「…うん、」
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