# Special edition

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# Special edition

穏やかな春の日差しを浴びながら目をそっと閉じる。 耳に流れてくる流暢なフランス語。 さっぱり意味のわからないフランス語が見事に子守唄となり心地よい微睡に入っていく。 「眠ってていいですよ」 そんな私に気付いたらしいトムは、耳元でそっと囁くとクスッと微かに笑った。 あーダメだ、本気で眠りそう。 ガッツリ仕事中なのに。 頭の片隅でそう思ったのも束の間、私はスーッと本気の睡眠に入っていった。 「リリィさん」 肩をポンっと叩かれハッと目を開ける。 「ぐっすり眠ってましたね、頬杖から机に突っ伏された時は流石にハラハラしましたよ」 トムがクスクス笑う。 「あーごめん、フランス語全然わかんなくて、語学苦手なんだよね」 んーっと座ったまま伸びをして苦笑いを溢しておく。 「理系でしたっけ?」 「うん、専門は地学」 らしい、と笑ったトムはこの春某有名国立大学文学部を卒業したばかりのインテリ君。 確か文学部では行動系の勉強をしていたと思う。私には全く興味のない世界だったけれど、なかなか楽しいらしい。 「さーて、お昼行きましょうか」 トムはニコニコしながら私の荷物を纏め手を差し出す。 ん?と、一瞬戸惑った後、ああ、そうでした、と思い出して自分の手をトムに預けた。 緑豊かな広大なキャンパスに充実した設備を持つこの私立大学はここ数年人気が高いそうだ。 学費もお高めなのが納得できる程のリッチな環境にも驚いた。 私の通っていた私立大学とは随分違う。 学生が1番多く集まるカフェテリアに向かい、全体を見渡せる壁際に陣取った。 トムがスマホのキャッシュレスでランチを調達してくれている間に目的の人物達を探す。 今日もバッチリ目立っているエマちゃんのおかげですぐに対象人物グループは見つけられた。 私が今調査に入っているのは私立大学。 この大学内でおそらくだがかろうじて合法の類に入る薬物を使用している生徒が数人いるらしく、その人物達を一気に排除したい大学関係者からの依頼で調査に入ったのは2週間前の事だった。 年齢的に大学生と言って通用するのはトムとエマちゃんなのだが、27歳の私もギリギリ行けるとボスが無理矢理大学に放り込んだ。 ショートにしてから確かに若めに見られるようになったが、嬉しさは微妙。 おまけに、今回の調査は女性が多く絡んでいるらしくエマちゃんはすんなりとターゲットグループに近づけた、さすがだ。 派手目でお金持ちそうな目立つグループ。 そこに同じ雰囲気を醸し出せるのはエマちゃんしかいない。 私とトムは、カップルという設定でエマちゃんのサポートに回った。 ターゲットグループの彼氏の方も調査したいから男子のトムがいないと困るんだけどね。 男子同士の話とかしてもらいたいしね。 ボスは、エマちゃんと私がそのグループに近づくようにしたかったみたいだけど、私ではかなり無理があるグループだったからボスも即座にトムと私がカップルの設定に切り替えてた。 カップルを装って調査してれば、1人で行動するよりは安全だし、友人というカテゴリーに入っていかなくても調査しやすいので私にはちょうどいいのだ。 手を繋ぐ程度はロビンも了承済みだから大丈夫でしょう。 因みに今回は各自偽名を名乗っている。 トムはレン、エマちゃんはモモカ、私はサクラ。 ジェームズさんが花の名前なら忘れなそうだからという理由でつけてくれた。
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