ツクモガミとお片付け

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 引き出しの中では、マスキングテープのオバサン付喪神が腕組みをして立っていた。 「どうやら私の出番のようね!」 「えっ?」 「いいこと?長いこと借りてた本を返すなら、ちゃんと袋に入れて可愛いマスキングテープで留めるべきよね。私みたいに可愛いマスキングテープで!」 「だったら俺が切ってやるよ、オバサン」  ハサミの付喪神が出てきた。 「まあっ! オバサンですって!? ちゃんと綺麗に切れるんでしょうね?」 「俺に任せときなって! スパッと切ってやるぜ。な、晴香」 「だったらいいんですけど。まあ手で千切られるよりはましだわね。そう言えばこの引き出しの中に可愛い便箋があるのよ。長いこと借りてたんだから、お礼のお手紙を書けばいいと思うわ」 「オバサン、そりゃきついって。今どきは長い手紙とか流行らないんだぜ。付箋にありがとーって書いて貼っときゃいいんだよ」 「それはさすがにどうかしら。私、付箋を貼り付けられるのは嫌よ」  本の付喪神も一緒になって、晴香そっちのけで話し始めた。  あまりに賑やかだったからか、一番上の引き出しからも声が聞こえてきた。 「開けて―」  鉛筆の付喪神の声だ 「ごめんね、うるさかった?」 「ううん。楽しそうだから目が覚めちゃった。ボクがお手紙書きたいなあ」 「お手紙……やっぱり書かないとだめかな?」 「書いたほうがいいと思うよ。だってお手紙貰うと嬉しいよ?」  付喪神が首をこてっと傾げて晴香を見上げる。 「なんて書いたら……。短くてもいいかな」 「うんうん。短くても良いと思うよ」 「ちょうどいいぜ。晴香、これに書け」  二番目の引き出しの中で、ハサミの付喪神が隅っこを指さしている。そこにはちいさなメモ用紙があった。一枚ずつ切り離せるタイプのメモ用紙で、高校の時に流行ったウサギのキャラクター。  そういえばよくこれを使って授業中にお手紙書いたっけ。  取り出してみていると、また付喪神たちが賑やかに話し始めた。 「これなら書くのも少しでいいわね」 「なんて書くのが良いと思う?」 「そうねえ。前略、正志さま、お元気でお過ごしのことと思います?」 「ぶはっ」 「じょ、冗談よーあははは」  そんな会話を聞きながら、深緑色の短い鉛筆で手紙を書く。  長く借りてて、ごめん。  ありがとう。  悩んで悩んで、たった二行の手紙だ。 「半年もたっていきなり本が届いたら、きっと驚くよね」 「でも借りたものはちゃんと返さなきゃ」 「うん」  あとは付喪神たちに言われるがままに、袋に入れてマスキングテープで留める。 「綺麗になったわねえ。私のマスキングテープのおかげだわー」 「うふふ。そうね。ありがとう。ハサミさんもエンピツさんもありがとう」  本の付喪神は他の付喪神たちに挨拶してから、晴香に向き直った。 「じゃあね、晴香さん。いろいろとお話しできて楽しかったわ」 「うん。私も楽しかった」 「何回も読んでくれてありがとう」 「そんなふうに言われると、寂しくなるよ」 「うふふ。そうね。じゃあサヨナラは言わないわ。会いたくなったらまた正志さんから借りて頂戴」  そう言うと、本の付喪神はすっと紙袋の中に消えていった。  ◇◆◇
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