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1日目
昨日の斎藤くんと安田先生が頭にちらつき憂鬱な気分の中、1時間目の英語がスタートした。
教壇で文法を説明する安田先生。
私の隣ではそれを一生懸命聞いている斎藤くん。
その姿を見てさらに憂鬱になる私とは反対に、窓の外には気持ちいいくらいの晴天が広がっていた。
晴天に向かってこっそりとため息と憂鬱な気持ちを一緒に吐き出す。
文法の説明を終えた安田先生は、教科書の和訳を質問していく。次々と当てられる生徒たち。窓際の前の席から順番に当てていき、私の前の生徒で一旦質問をストップし、今度は単語の説明に入った。
隣の席の斎藤くんはというと、背筋を真っすぐ伸ばして真剣に黒板を見ている。いつもは、他の教科の内職をしているのに今はしないんだな……なんてぼんやり思ってから、はっと気づく。
そんなことを考えてしまうくらい斎藤くんのことを見てる!?
いやいやいや。ストーカー一歩手前?と心の中が騒がしくなる。
「じゃあ、この訳を宮野さんに答えてもらおうかな」
今、宮野さんって言った?
自分の心の中のパニックに気を取られ、先生の話を全く聞いていなかった私はあたふたして、とりあえず椅子から立ち上がった。教科書を持ち上げ、何を答えたら良いのか教科書と黒板を見比べる。
答えが分からずにいると、横からすっと手が伸びてきた。
『ここだよ』
右隣、頭よりやや高い位置から斎藤くんの声が聞こえる。
斎藤くんの助け舟のおかげで何とか答えることができた私は、お礼を言おうとしてある矛盾に気が付いた。
座っているはずの斎藤くんの声が何で私の近くで聞こえたの?
そっと右隣を確認すると、変わらず授業に集中している斎藤くん。私に助け舟を出してくれたようには思えない……。
じゃあ、さっきのは何だったのか、と疑問が浮かぶ私の視界の端に学生服がちらつく。私の席は一番後ろ。斎藤くんも一番後ろの席で……。
恐る恐る後ろを振り返る。
教科書と黒板を交互に見ている斎藤くんの後ろには信じられない人物が……
斎藤くんがもう一人。
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