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ケーキを美味しく頂いた私たちはカフェを後にして、駅に向かっていた。
カフェに入った時には茜色だった空はすっかり暗くなり、駅前は外灯とイルミネーションで輝いていた。クリスマスからバレンタインまでの期間、駅周辺がキレイにライトアップされているのは毎年の光景。
駅前の大通りは、帰宅する車で渋滞していた。
「まだ5時半なのに、すっかり暗いね~」
駅に併設されている駐輪場に自転車を停めた双葉がスマホを確認しながら言う。ついでにさっきアップしたSNSのチェックも怠らない。
「だね。あ、ふーちゃん。さっきの焼き菓子忘れてるよ」
双葉の自転車のハンドルにかかったままの小さな紙袋に気づいた薫くんが、紙袋を双葉に渡す。
カフェで買った焼き菓子は両親へのお土産にするのだそう。
双葉は「ありがとう」と薫くんから紙袋を受け取る。
双葉と薫くんのやり取りを聞きつつ、私も自転車を停め、駅構内へ向かった二人の後を追おうとしたところで、駅のロータリーに停まる1台の車に目が留まった。
赤い軽自動車が、私の目の前をゆっくり通過し、ロータリーに侵入して360度方向転換しロータリーの出口付近に停車する。
助手席には斎藤くん。運転しているのは英語の安田先生だった。意外な組み合わせに一瞬目を見張る。
「え?」
動きが止まり、思わず注視してしまう。
斎藤くんが車から降りると、続いて安田先生も降りてきたが、車が邪魔で二人が何をしているのかよく見えない。二人の動向が気になって動けないでいると、先に構内に入ったはずの双葉が戻ってきた。
「お姉ちゃん、何かあった?早く行くよ。電車来ちゃうよ」
心配そうにのぞき込む双葉の顔。
「うん、ごめん。行こうか」
ちょっと笑って誤魔化す私に双葉は安心した様子でにっこりした。「ボーっとしないでよね」と小言を言って、駅まで私を引っ張っていく。私はもう一度ロータリーの方をちらっと見ると、発進する車とそれを見ている斎藤くんがいた。
斎藤くんと安田先生。安田先生は英語科の教師で、私たちのクラスの副担任。その二人がなぜ同じ車に乗っていたのか。どんな理由があるのか分からないけれど、好きな人が自分以外の女性と一緒の所を目撃して胸がざわつくのははっきりと分かった。
ーー嫉妬。この感情を表すならこの漢字がふさわしいな、なんて考えて苦笑いしてしまう。
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