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プロローグ
雪のふる朝、恋をした。
めったに雪がふることはない温暖な地域に、その日は珍しく朝から雪がちらついていた。
あまりの寒さに思わず吐息を吐き出すと白い息が、ほわぁ~と空へ吸い込まれていく。
私は慌てて両手をこ擦り合わせる。少しでも暖かくなるように。
私、宮野一葉。17歳、高2。
この町のメイン駅にあるバス停には、長い列が出来ていた。同じ学校の生徒が並ぶ中、列の最後尾にいた私は、ふいに後ろから声をかけられた。
「宮野さん、コレあげる」
振り向くと同じクラスの男の子だった。
斎藤修二。
斉藤くんはコレ、と言ってホッカイロを渡してきた。
「……ありがとう」
思わず受け取ってしまった私に、“どういたしまして”と言うように頷いた斎藤君はイヤフォンを少し直し、スマホに目線を落とした。
やや長めの前髪が顔に影を落とすせいで、表情が読みにくい。学校での彼は、静かに本を読んでいるかスマホを弄ってて、どこか他人を寄せ付けないオーラがある。
そんな彼と私の接点といえば、昨日の席替えで隣の席になったことくらい。
他人に興味がないのかと思っていたから、ホッカイロをくれるなんて意外だった。
きっと、この瞬間。
思いもよらない彼の行動に、私は恋に堕ちたんだと思う。
何でくれたのか分からないけれど、寒さでかじかんでいた指を温めるためにありがたく使わせてもらうことにした。
やがて指先が暖かくなる頃には、私の胸もほんわり温かくなっていた。
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