片付ケタイ親友

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「実は博人から名前を聞いてすぐ、先生から聞いたんだ。十三年前の六月のある雨の日、自転車で登校中車にはねられて死亡した生徒がいるって。当時一年六組の藤井博人」 「……」 「二年前に博人と出会ったあの雨の日、俺凄く調子が悪くて、博人が生きてるのか死んでるのか、見分けがつかなかったんだ。悪いことしたなと思ってる」 「それって、焼却炉で俺に声をかけたこと?」 「ああ……」  博人の表情は、あの日焼却炉で延々とゴミを捨てていた時と同じ、空虚なものになっていた。  もしあの時、博人が既に死んでいるとわかっていたら、俺は存在を無視して普通にゴミを捨てていただろう。再び声をかけられた時、彼が生きている人間でないことはわかっていた。しかし、名前を知られていたことで無視できないと、半分諦めてしまったんだ。  いや、違うな。単純に嬉しかったんだ。死人でも俺に興味を持つ奴が現れたのが。 「この学校へ入学して、二か月で事故っただろ? 俺、人見知りだったから……まだ仲のいい友達いなかったんだ」 「俺には図々しかったけどな」 「だってずっと誰も俺のことに気づかないんだぜ? 話しかけても、わざと消しゴム落としても、ロッカー開け閉めしても、ピアノを勝手に鳴らしても。逃げるばかりで、誰も俺に気づかない。それが十三年もずっとだ! もう諦めてた。誰も俺には気づかないんだって……そんな俺にツッコミを入れたのが忌一だった」  博人の瞳が、俺を見て駄々をこねている。俺も同じ気持ちだと、言ってやりたいのをぐっと堪えた。 「先生達、今日は大掃除なんだってな……。忌一も俺を掃除しに来たの?」 「今年の汚れは今年のうちにって言うしな」 「酷いな……俺は汚れかよ」 「冗談だよ。俺はお前に礼が言いたかっただけだ。博人のおかけで、高校生活が結構楽しかったって」 「忌一……」  博人の姿が段々と薄くなっていく。死者は普通の人間よりモノクロのような色合いで見えていた。しかしそれもどんどん背景に同化していく。 「忌一、最後に教えてくれ……俺達って何だったのかな?」 「親友に決まってるだろ、博人。三年間ありがとな……」  博人が最後に差し出した手は、俺が握る前に消えていった。そして彼の、『俺こそありがとう。さよなら……忌一』という言葉だけが、俺の耳に優しくこびりついた―― * * *  年が明け、予定通り俺は父の見つけてくれた寺に入った。もう少し寺に入るのが遅れていたら、俺は生きる屍となって俺の中にいるアイツに体を明け渡していたかもしれないと聞かされた。  人間に憑りついた死者は人の生気を吸い取り、未練を果たそうとする……と、住職は言う。博人は俺が親友だと認めたことで、未練が無くなり成仏したのだとも。彼との決別で、俺の失われた生気はみるみるうちに回復していった。  俺の中にいるアイツのことは、住職の専門外だと突っぱねられた。博人のような死者の魂を鎮めたり、それらから受ける霊障を取り除くことは出来るが、異形……妖怪の類は専門外なのだと。  だが、俺の中にいるのは異形なのだとこれでハッキリした。この先、アイツが俺の中から消える日が来るのかはわからない。でもそれまでは、博人が俺にとって唯一無二の親友であるのは間違いないだろう。 <完>
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