片付ケタイ親友

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 桜の木が新緑に覆いつくされる頃、恵みとでも言わんばかりの雨が降った。梅雨の走りだ。 (頭が痛ぇ……)  「高校くらいは出ておきなさい」と口酸っぱく養父母(りょうしん)に説得され、一か月前に家から一番近い普通校へ入学した。本当は彼らのために一刻も早く働きたいところだが、この体のせいで日常生活を送るだけでもやっとだ。  雨の日は特に辛い。アイツの力が強まるから……。  「起立」「礼」「着席」を五回ほど聞けば、何となく一日が終わる。そんな感覚だ。中学の頃とほとんど変わらない。  ただ高校生活のいいところは、掃除の時間が無いことだ。地方の公立高校でも、業者が教室の清掃を請け負ってくれる。義務教育のように『みんなでお掃除』という苦痛の時間帯が無い。  しかし、ゴミ捨て当番という存在だけはあった。毎日その日の日直が、放課後に教室のゴミ箱をチェックし、中身がいっぱいなら敷地内の焼却炉へ捨てに行く。 (当たりかよ)  毎日ゴミを捨てに行くわけではないので、誰が呼んだかゴミがいっぱいの日は「当たりの日」と言われている。本日日直の俺は、ピリピリと痛むこめかみを抑えつつ、プラスチック製のゴミ箱をよいしょと持ち上げた。  小降りにはなったが、まだ雨はしとしと降っている。傘を差しながらゴミ箱を抱えると、全くこめかみを抑えることが出来なくて余計に辛い。こうなったらもう早く済ませるかと、制服に泥が飛ぶのも構わずに速足で焼却炉へと向かった。 (先客か。早くどいてくれ……)  焼却炉では、既にゴミを捨てている男子生徒がいた。傘もささずに。とりあえず彼の後ろに立ち、ゴミ捨ての順番がくるのを待つが、それは一向に訪れる気配が無い。我慢して五分ほどが経過した頃、 「いや長いな!? どんだけ入ってんだよそのゴミ箱! 四次元か!!」  あまりの痛さに耐えきれず、俺はとうとうツッコミを入れてしまった。 「え……」  振り返った彼は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたが、それには構わずに空いたスペースへどんどんゴミを捨てる。全て捨て終わっても彼は依然としてその場を離れようとしなかったが、俺は無言でその場を立ち去った。  よく考えてみれば、これが俺の高校生活で初めて他人に声をかけた瞬間だった。
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