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焼却炉で出会った彼とは、一週間も経たずにまた再会した。
「やぁ、また会ったね」
移動教室での授業を終え、渡り廊下を一人でとぼとぼと教室へ向かう途中、後ろからそう声をかけられ、肩を叩かれた。
「あ……」
俺は周囲に人がいないことを確認する。昔からの癖だ。改めてよく見ると、彼は二センチくらいの短髪で、爽やかな笑顔を向けていた。あの雨の日とは比べ物にならないほど、明るい表情で。
「俺は一年六組の藤井博人。博人って呼んで。君の名前は?」
「……」
「何だよ、教えてくれないの? 三組の松原忌一君」
何故か博人は俺の名前を知っていた。じっとりと背中に嫌な汗が流れる。
「忌一って呼んでもいい?」
「好きにしろよ」
名前を知られているのなら観念するしかないとそう言ってはみたものの、ヤバい奴に目を付けられたなと、俺はあの日痛みでたまらず声をかけてしまったことを激しく後悔した。
それからというもの博人は、俺を見つけるなり必ず声をかけてくるようになった。それは下駄箱だったり階段だったり、廊下だったり教室だったり……所かまわずだ。だが俺は、周囲に人がいる時は必ず無視を決め込んだ。
博人は最初、わざと俺の前でジャンプしたり顔を覗き込んだり、目の前で手を振ったりとあの手この手で俺の気を引こうとしたが、人前で関わらないようにしているのだと理解すると、俺が一人の時を見計らって声をかけてくるようになった。
「忌一ってさぁ、いつもずっと一人だよね」
「……」
最近はもう俺の方が観念して、わざと人気のない別棟の屋上まで来て、昼飯を食べている。ちなみに今日の昼飯は、購買で買ったサンドイッチだ。
博人に合わせていると思うと癪だが、そうでもしない限り人気がなくなった途端どこでも声を掛けてくるので仕方がない。トイレで突然声を掛けられた時は、小便が飛び散るかと……いや、心臓が飛び出すかと思った。
「それって小学生の頃の事件と関係あるの?」
「どこで聞いた? それ」
「忌一の噂をしている奴がいてさ。名前もそこで知ったんだ。小学五年生の頃、忌一をいじめた男子生徒数人が行方不明になったって。それ本当?」
博人が興味深々と言わんばかりの瞳を向ける。俺は溜息をつくと、空を仰いで「あぁ」と答えた。
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