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プロローグ
4月第3木曜日 19時 名古屋市
猿履をかまされている女のぐぐもった声だけが真っ暗な部屋に響いている。
男は棚を漁る手を止めた。貴重品の類はあらかた集め終わったらしく、女性に向き直った。
ナイフを取り出し、男は服を一文字に切り裂いた。
悲鳴を上げようとするが、声になるわけもなく。
その時、けたたましい音を上げて窓ガラスが割れた。
続いて、ドンという鈍い音。
男と女性が驚き、そちらを見る。
散乱したガラス、そこに黒い塊。
塊はすぐに立ち上がった。
一瞬塊に見えたそれは少年だった。黒く見えたのは、少年が学生服を着ていたからだろう。
それは、痛みに耐えながらも彼らの方に向き直る。
三者の間を静寂が包む。五秒、十秒、少年が口を開いた。
「その人から離れーーー」
その時、少年の体がまるでスーパーボールのように縦横に部屋の床や天井に叩きつけられ、そのまま、窓の外に引きずりこまれた。
だだの人には見えない、あの巨大な蛇が。右手に持っている刀も、体に纏う黒炎も、彼らのような存在にしか見えない。
あちら側に近づきすぎて、もう戻れなくなった彼らだけが見るに能う。
新幹線ほどの大きさのある、大きな蛇だった。その色彩はザクロを潰したように真っ赤で、頭部では硝子玉めいた三つの魔眼がぎらついている。
なにより不可思議なことは、その巨体が間違いなく家や車をすり潰しているはずなのに、実際は家も車も、中にいる人も潰れていない。
なぜなら、この蛇は常人や普通の物質と同じ位階に存在していないからだ。
この蛇は実体なく、このままでは無害なままで、我々の世界と互いに干渉しあうことはない。
この場で怪物蛇により実害を被るのは、マンションビルの7階相当に叩き込まれ、今それ以上の高さで蛇の頭とドックファイトを繰り広げる少年と、もう一人。
「釧灘! 吹き飛ばしていいのか!?」
その蛇の尻尾を掴んでいる、紫の炎を纏った少女だけだ。
学生服を着た少女は、巨大な蛇を抑えて踏ん張っていた。
少年は蛇に食われ、振り回されながらも叫んだ。
「待ってくれ井上! 俺が仕留める! そしたら警察を呼んでくれ!」
「あ!? 何で!? つうか人に見られたらどうすんだ!」
「あそこの部屋で強盗だ! 今から突っ込む!」
「はあああ!? 何て!?」
少年は答えず、体を食われながらも上半身の力のみで黒刀を蛇の脳天に突き刺し、振り抜いた。
蛇は頭蓋が砕かれ、いや、それどころか、何十メートルもある蛇が半分ほどまで切り裂かれ、倒れ伏す。
少年はその頭から飛び出して倒れ伏す勢いを利用し、蛇からヒラリと飛び降り、先程いた所に相当の速さで突っ込んだ。
前回り受け身二回転。少年は先程の部屋に戻ると、男に向き直った。
「あんた、この刀が見えるか?」
少年は男に刀を向けた。刀は男をすり抜け、ため息を吐く。
男は訳もわからずナイフを少年の首元に突き刺そうとした。
タイミングで少年は腕を盾にして突き手の外側に踏み込み腕をとる。
そのまま肩を掴み、男の姿勢を無理やり落とさせる。
腰をいれて支点にし、テコの容量で腕を決め、ナイフをすり取った。そのまま肩を捩じり上げ。
ゴリっ
外した。
女性にとっては、男が勝手に倒れこんだように感じた。
あまりに動作がなめらかで、脳の処理が追い付かないゆえに。
少年と女性の目が合う。女性からみて少年は、美しかった。
黒曜石の瞳、綺麗に整えられた眉、形のよく薄い唇に、纏う静かな気迫。
少年は女性の拘束を解き、半裸の女性の姿をなるべく見ないようにして、言った。
「救急車呼んでください」
そして、座り込んだ。少年の手首から、どくどくと血が流れていた。
我々が存在し、普段過ごしている世界。通常の物理法則が支配し、人間は肉体に縛られている。銃や鉄、兵力と科学力、そして鍛えた肉体が物を言う「現実世界」
同時刻 福岡市。
とある暴力団事務所の一室、5人もの男が血だまりに沈んでいた。
轟く銃声、それをものともせず駆け抜けるののは、おそらく高校生程度であろう長髪の少年。
少年の名は蓮野小太郎。何の能力も持たない人間。メディア発表はされていないが、手配中の連続殺人犯。
右手には鋭利な鎌を逆手に持ち、その根元には紐でつながれた分銅がついている。
少年は俊敏に鋭敏に、男達の喉笛を切り裂いていく。
「何だ! 何だ! てめえ」
男は、銃を突きつけようとしたが、それもできなかった。手首から先が消失していたからだ。
「いえあ! 僕忍者! ユーマストダイ! オーケー!?」
そう少年は、涎でもたらしそうなほど楽しげで凄惨な笑い顔で、男の両目を切り裂いた。
叫ぶ男を後ろ手に拘束し、残る一人に向き直る。
「おい! 動くんじゃねえぞ! 人質の命が惜しかったら」
小太郎は慌てて男の背中に隠れた。人質の男の眉間に風穴が空く。
「ひでえなあ! 人情紙の如しだな!」
そう叫びながら、小太郎は鎖分銅を振り回し、投擲した。
銃を持った男の首に鎖が巻き付き。
鈍い音を立てて、男が倒れこんだ。
鎖分銅は危険な兵器である。仮に腕に巻き付けば腕が、首に巻き付けば首が折れる。
小太郎はさらに追撃しようとして、けたたましい銃声に思わずそちらを向いた。
小太郎のいる部屋の隣の部屋では、鼓膜が破れそうな勢いでマシンガンが撃たれている。聞こえてくるのは悲鳴、怒声。
そして銃声が止んだと思った瞬間、壁が破れ、男が吹き飛んできた。
男は顔面が原型を留めていないが生きてはいるのだろう。ぴくぴくと痙攣している。
壊れた壁の向こうから現れたのは、黒い男だった。
黒いコート、ズボン、靴。フードが深くかぶられ、覗くのは銀の仮面。仮面につけられた赤い模様はライオンを思わせる。
「ブラックコート!? 噂はかねがね」
小太郎は深くお辞儀をすると、おもむろに銃を拾って、流れるように男の足を撃った。
だが、衝撃が殺されるような気のない音を立てて弾丸が弾かれる。
ブラックコート。都市伝説の一種、数か月前から噂になっているクライムバスター。
「蓮野小太郎だな。中1にしては体格がいい。そして聞いた以上にイカれたガキだな」
その声は機械を使っているのかどれほどの歳かわからない。だが、口調からして若いだろう。
「そろそろ観念しろ。いつまで続ける気だ?」
「とりあえず14歳になるまでかな? あんたらがこいつら根絶やしにしてくれりゃこんなことやらずに済んでる!」
そう叫んで、少年は分銅を振り回して投げ男の首に巻き付ける。
先ほどのようにこの時点で首の骨が砕けるところだが、ブラックコートに動じる様子はない。
小太郎は予測していたように窓まで駆け抜け、手早く開けて飛び出した。
ブラックコートは逡巡しつつ、鎖を掴んで踏みとどまった。衝撃が伝わるが、男はビクともせず耐えた。
そのまま、男は窓に駆け寄るが、既に通行人の悲鳴を置き去りに、遥か彼方を少年は走っていた。
「叩き落とせばよかったのに! あんた優しいんだな!」
そう叫び、少年は雑踏に消えた。コートの男は天井を向いた。
同時刻、名古屋市
繁華街を爆走する車をパトカーが追っている。
薬か酒か、ふらふらと覚束ない運転にもかかわらずかなりのスピードが出ている。
しかし、その車が、カーブを曲がろうとした時に、曲がり切れず横転した。
いや、ように見えた。
パトカーを運転していた巡査は独り言ちる。
「熊が、繁華街に?」
そう、何か巨大な塊が車の横あいからぶつかり、横転させたのだ。
「いや、あれは井上雄大警部補だろう」
助手席に座る年配の警部が苦笑しながら言う。
「井上警部、ご苦労さまです」
「いえ! こちらこそ邪魔してすいません!」
敬礼をし返すのは195センチの巨漢だった。体重は100キロを下回ることはないだろう。
岩倉雄大。愛知県警所属。空手と柔道の使い手。
肥満ではない、ただ体が厚い。発達した肉体がスーツの上からも分かる。
「とりあえず引き倒しますか? あれ」
「うーんそのままでもいいんじゃない?」
年配の警部の冗談めいたセリフに、井上も「そうっすね!」とにこやかに返した。
「すいません、雄大さん」
婦警が二人に割って入る。
「何?」
「妹さんから! 通報です!」
その言葉に雄大は頭を掻いた。
「何かやったかな? 勇美に釧灘君」
魔術、陰陽術、錬金術、そして神や悪魔や精霊から力の一部を受けたもの。現実世界とは異なる法則を操るもの、「異世界」に繋がる「異能力者」
同時刻 ???
少女の手のひらには、世界があった。
なめるようにいつくしむように回す空間には、もくもくとしたエネルギーができる。
手のひらから湿気が現れる。それが凝縮され雲になり、雲は黒ずみ、雷雲となり、そこから青白い火花がで段階で。
握りつぶした。
そして夜空の数少ない星を見上げる少女は、涙を落とし、肩にかかった。
「私って、何なの?」
そう星に問うが、答えが出るはずもない。
同時刻、東京江東区
男は、女性たちを侍らせ、ご満悦だった。
この家の父と兄は、意識を失ったように座っている。
母と、娘2人は、茫洋とした顔で、下着姿で立ちすくんでいる。
「最高だよ! ディオ! みんな僕の思い通りだ!」
「気に入ってくれて嬉しいよ」
ディオと呼ばれた赤い髪の少年は、笑顔で言った。
その顔立ちは上出来すぎてまるで現実味がない。
「それでさ、この力を与えるかわりに、やって欲しいことがあるんだ」
「うん、あの東堂君をふんじばればいいんだろ?」
「ああ、そうさ、そしたら僕の能力に制限がなくなる。もっとたくさんの人間に言うことを聞かせられるよ」
「分かったよ。とりあえず、楽しんでからでいい?」
「ったく、君をいじめてた男のつがいにあんだけやったのに、欲深いことで」
(だけど、その位欲まみれの方がちょうどいい)
同時刻、島根県日本海沿岸。
日本海上空にて、巨大な龍が飛んでいた。まるでおとぎ話のように長大で、全長100メートルはある。
まるで空を掴んで歩いているように優雅に、夜気のはらむ風を携えて、青い龍は飛ぶ。
その龍の背で茶髪の少年はギターを抱えて浮いていた。
上空数百メートルを、優雅に飛行しながら、ギターをかき鳴らす。
少年の名は、岩倉風雅、稀代の陰陽師。四獣を操り、彼らに音楽を捧げるもの。
少年の周囲には、2隻の船が浮いていた。
おだやかに飛ぶその船の上、船員は皆意識を失っている。
それを慎重に浮かばせながら、少年は透き通るような声で歌った。
「しっかーし、やんなっちゃうね、やんなっちゃうね、眠いしダレるし気が散るし」
ベンベンと気の抜けた演奏で、少年は気の抜けた歌を歌う。
『真面目にやれ、風雅』
風雅は、耳につけた通信機に対し、バツの悪そうに返事する。
「わかってるよ、父さん」
少年の真下の海には、巨大な、それこそ島ほどの影が映っていた。それが、どんどん大きくなっていく。
現れたのは、極彩色の鱗を持つ、極大な頭だった。百メートル級の龍すらたやすく呑み込めるほどの、巨大な魚の形をした海魔である。
「趣味の悪い使い魔だなあ」
野良の魔術師の暴走か、何者かの手引きによるものか、海魔は実体を伴って近海の漁船を襲っていた。
せりあがっていくそれは、龍に乗る少年に迫る。
牙から逃れるように龍と船達は高度を上げる。
異能の存在する世界よりさらに上、神霊や精霊、悪魔の存在する世界と人間の住む世界、それらのほんの少しこちら側の力を操る「霊能力者」
同時刻、島根県山中。
白い狼が、飛んだ。山をはるかかなた下に見下ろし、放物線を描いていく。
その背には、一人の少女がしがみついている。
高校生程であろうか、艶やかな烏の濡れた羽のように黒い長髪を一つに結んだ少女は、その手に弓を持っている。
名を黄桜清良。弓道三段。狗神憑きの巫女。一射で全てを穿つ乙女。霊能者序列第5位"千里射ち"
狼が飛翔から落下へと変わる放物線の頂上で、少女の右手から、桃色の炎が吹き上がる。
桃色の炎が矢へと形を変えた瞬間、矢を番え、引く。
一瞬でその矢の速度は音速を超え、さらに加速していく。
そのまま町を超え、山を越え、もう一つ町を越え、もう一つ山を越え、もう二つ町を越え、海を渡る。
同時刻、島根県日本海沿岸。
衝撃が、海魔を貫いた。
いや、そのような生易しい表現ではすまされない。
衝撃波が龍と風雅ごと海魔を爆散させ吹き飛ばした。
ひらりひらりと宙を数秒散歩した後、少年は龍に拾われる。
「あいっかわらず加減をしらないな、清良さんは」
海魔が消滅した眼下の海は、あれほどの衝撃が嘘のように凪いでいた。
その威力に冷や汗を垂らす風雅。
「ま、俺は楽できていいや。帰ろ」
天使のような笑顔を浮かべ、少年は龍とともに去っていった。
同時刻、仙台市
仙台のビル群。その一つのビルの頂上。
そこにたたずむのは20代後半の女性である。
女性が拳を振るう度、銀色の炎が舞い上がる。
拳はボクシングのシャドーのように連続的で隙が無い。
斎藤香澄。内閣情報調査室所属。システマの使い手。霊能者序列第2位"必倒打突"
女性の前には、怪しげなコートを着込んだ男達が倒れこんでいた。
その男達の中央には、血で描かれた魔法陣が、異様な存在感を放っている。
女は拳を地面に叩き付けると、炎と衝撃波が巻き上がる。
その炎が、血だまりを跡形もなく吹き飛ばした。
同時刻、東京江東区。
ブチっという音とともに、ディオと呼ばれた悪魔は悲鳴すらあげずに消滅した。
男は何が起こったかわからなかった。
だが、気が付いたら何か大きな力に引っ張られ、町の遥か上空にいた。
「あ、え、なん、で」
そのまま男はブチリと、音を立てた。
少女たちと母親が意識を取り戻し、自身があられもない姿でいることと、侵入者に悲鳴を上げた。
同時刻、東京千代田区。
高層ビルの上に座るのは、高校生位の少年である。
名は藤堂興元。仏教徒であり、関東一帯を守護する霊能者序列第4位"不動明王"。
ワックスで整えられた茶髪、耳には派手なピアス、銀の指輪。
それとは相反する、袈裟装束に錫杖、数珠。
いらついたように、錫杖をシャンと鳴らす。
「いい思いしやがって、こちとら宗教上の理由で童貞だぞクソが」
そう呟いて、僧侶はあぐらを組み、集中する。
そして、我々とはことなる価値観と、巨大な力、世界を取り巻く、精霊、悪魔、怪物。「神」
「あいかわらずひんのないおとこよな。おぬしは」
あぐらをかく少年の背後に立つのは、赤い目、煌びやかな装飾の着物から覗く肌は雪のように白い、それと対をなすかのような黒の髪、童女のようにも、妖艶な美女のようにも見える女神が、にこやかに笑う。
そのまま少年にしだれかかるが、少年は集中を切らされた苛立ちを隠さず罵った。
「お前とは宗派が違うんだ。アマテラス」
「ふふ、つれぬのう。おぬしもせいらも」
平坦な言葉が、不快なほど少年の耳に入ってくる。
「俺は破綻者じゃねえんだ。神に欲情なんぞするか」
その言葉にアマテラスはころころと笑う。
「はたんしていないというが、すんなりところしてしもうたな」
「殺してねえよ。玉潰しただけだ」
吐き捨てるように答え、錫杖の先から蒼い、怖気を誘う青い炎が上がる。
「ちゃちな悪魔が大勢でやがる。この街は」
「ひとがふえれば、あくりょうもふえるものよ。それこそしゃかにせっぽうだろうがの」
「分かってるよ。これも仕事だからな」
舌打ちをしながら、錫杖をシャンと鳴らす。
その先から青い炎が舞い上がった。
同時刻、雷雲を持つ少女のマンション。その屋上。
一人の神が、寝そべっていた。
シルクハットのようにも見える兜を頭に被せ、寝転がっている。
真っ白なサンダルを履き、竪琴を奏でる、その音はどこにも漏れることはない。
「どうすっかなあ、父上に報告するかな。でも母さんの耳にも入るよな。どうするかなあ」
そのような独り言をつぶやくも、なぜかあまり深刻な様子はない。
「何かこの国もあっちこっちで巨大な力があるし、帰るかなあ、どうするかなあ」
竪琴をかき鳴らすも、何かをする様子はない。
そのままひとしきり悩んだ後、飽きたのか、寝息を立て始めた。
同時刻、ニューヨーク。
黄金がそのまま人の形に変わったような金髪、金の瞳の美貌を持つ悪魔は正確に海の向こうの出来事を把握していた。
ソファーに座り、一本何万ドルもするウイスキーをラッパ飲みしながら、悪魔は呟く。
「大きくなったな、おい。少しかまってやるか」
金髪の男はそう呟いて、消えた。
この物語はこれらの危険な存在と。
少年は脇を抑えて止血した。少年の腕には、まるで巨大な獣に噛まれたような傷が残っている。
部屋でうずくまっていた女は慌てて救急車を呼んだ。
「すいません、はい一台……ヒッ」
だが、その物音に女性は息を飲む。
男が立ちあがっていた。肩を抑えながらも、その瞳は血走っている。
少年はふらつきながらも立ち上がる。
対峙する二人、しばし睨み合う。
だが、不意に扉がけたたましい音を立てて開いた。
ずかずかと荒々しい足音。
少女が乗り込んできた。
制服姿で、黒髪に色黒の肌、美少女と言っていい顔立ちと大柄な体格。
スカートから覗く足は顔に似合わず発達して逞しい。
剣呑な表情で、少女は男を睨む。
男は少女に向き直るがそれよりも早く、少女は催涙スプレーを吹きかけた。
悶絶する男から平手でナイフをはじく。
そして正拳突き一閃。
男は苦悶の表情でうずくまる。
だが、男はふらつきながらもタックルしてくる。少女は腰を落とし受け止める。
そのまま硬直したところで、少年は男の頭を掴んだ。
無理やり体の方に引き込み、膝蹴り一閃。そのまま連続で5発。
男を力任せに転がす。
そのまま飛び上がって思いっきり頭を踏みつけようとする。
「やめんかアホ死ぬわ!!」
少女が飛びついてそれを阻止した。
男は失神している。
「あんた! 体重何キロ!」
「60」
「全体重かけて顔面踏みつけたら死ぬわ!」
60キロの石が顔面にぶつかれは死ぬ。当然のことだ。
当然それは少年もわかっており、その上で、聞き返した。
「で?」
少年は平坦な瞳で少女を見る。
少女は黙って掌を頭にのせる。
そこで、二人は窓を向く、先ほど両断された蛇が、ジロリとこちらを見ていた。
元々三つあった瞳は、一つは真半分、二つに分かれた体の片側の瞳と瞳で、じっと見ている。
そのまま口を開こうとしたところで、勇美が突きをかるく突き出す。
紫の炎が右腕を中心に巻き起こった。
それだけで、蛇が爆散した。
同時に少年もまた余波で吹き飛び、壁に叩き付けられた。
少年の名は釧灘大和。日本古武道水地流。霊能者序列第13位"日本最弱"の霊能者。
少女の名は井上勇美。空手道。鋼の防御力。霊能者序列第7位"紫炎の乙女"
彼ら二人を中心としたお話である。
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