011-葛葉小路商店街の怪(6)

1/1
前へ
/35ページ
次へ

011-葛葉小路商店街の怪(6)

 ツヨが固まった。  手元のフライパンの上の肉は少し焦げ、黒い煙がわずかに立ち上っている。 「ちょっ?!どうしたのツヨちゃん!」  環奈(かんな)さんが慌てて、コンロの火を止める。  ツヨは暫くコショウの入ったビンを見るめると、蓋をあけ、中の匂いをかいだ 「ねぇ、環奈さん、これ特別なもの?」  私は環奈さんに聞いた。 「あぁ、それ? 最近できたミックススパイス専門店で仕入れたのよ。香りがいいでしょ?」  環奈さんは自慢そうに言う。  最近、そんなお店が出来たのだろうか? 全然知らない。 「環奈さん、それいつできたお店? 何処にあるの?」 「え? ん~と……」  環奈さんは言葉を詰まらせる……。 「……でもこの商店街で買ったんでしょ?」 「うん。商店街のはずなんだけど」 「じいちゃんは知っている?」 「私が注文するからそれはないな~」 「最近はいつ買った?」 「え~と、先週のはずはずなんだよねぇ……」  環奈さんは、お店の場所以外の質問にはすぐ答えてくれる……これはどういうことだろうか? この肉屋は環奈さんの父親(じいちゃん)の代からやっているはず……環奈さんにとって商店街は自分の庭のようなものなのに、お店の場所を覚えていないのは少しおかしいと思う。  その間、ツヨは、ビンの中のコショウを少し手に取り、舐めていた。 「――?!」  ツヨが僅かに少し目を見開いたように見える……どんな味なのだろうか?  私はコショウを舐めてみようと手を伸ばしてみた。  ……ジジュワッ  コショウに少し触れると、何か背中に少し痛みを感じる……手は……離せない……。 「だめっ!」  ――パシッ  ツヨは慌てて私の手を叩く。 手からコショウがなくなると、背中の痛みも消える……。 「あぁ……」  ツヨの口調が少し暗い……よく見ると次第に白い狐のような姿に戻っていた。 「ツヨッ! 姿が……」  私は慌ててツヨの姿を隠そうと周りを見回す……が……そこは私がいた肉屋の2階ではなくなりつつあった…… 『――愛紗……景色が……』  ツヨも思わず息を飲む。  当初は肉屋の2階だったが、焼かれる写真のように、ところどころ、ジワジワと景色が変わっていく……その色彩は……まるで彼岸 斬玖(ひがん きりく)の画集そのものであった。 「ツヨ? これはどういうこと?!」 『……多分、あのコショウの零因子と、愛紗の“死の契(しのちぎり)”が反応したんだ……詳しくはよく分からないけど……』  私は肩の痣をみる……“死の契”は……赤い複数の蛇が動いているようだった。 『でもこの感覚は……“百業街(ひゃくぎょうがい)”に似てる……』 「百業街?」 『第237霊界の商業地域のことかな……あの世界は大きく百の仕事で成り立っていたから“百業街”……地域が集中していれば経済は発展するからね……あそこは様々な質の零因子で溢れていた……ここもそれを感じる』  暫くすると、室内の変化が止まった。家具は、フローリングから畳、台所には水槽のように水がゆらぐ半透明な箱がいくつも並び、呪文のような文字と記号が並んでいる。どう使うのか、全くよく分からない。  もちろん環奈さんはここにはいない。  私はまわりの景色を見るために2階のリビングであった場所に行き、窓を開ける。 「――なっ?!」  目の前には彼岸 斬玖が描いた葛葉小路(くずはこみち)商店街が見えた。  その時―― ――キシキシキシ。  上の階から音が聞こえた。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加