021-“流命の腕輪”と“羅津銘”(4)

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021-“流命の腕輪”と“羅津銘”(4)

※ツヨのセリフの符号を変更しました。テレパシーを使用している時は『 』、実際に話す言葉は「 」とします【R4.2.28更新】 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  その日の深夜。  私とツヨは、ツキカゲさんに離れの庭を散歩すると伝え、黒夢(くろゆめ)に来ていた。ツヨの世界の魔法――第237霊界の法術――を教えてもらうためだ。  夜の庭は空の濃い霧のせいで月や星は見えないが、私が昼間咲かせた花々が輝いているため、黒夢の範囲であれば視界は結構明るい。ツキカゲさんの話では、零因子が過度に活性化したものは発光するという。この花々は今日咲いたばかりだから、こんなに強く輝いているのだろう。  ツヨは人の姿で浴衣のような寝具を身に着けている。確かに訓練する場合、その姿の方が私も真似しやすい。 「これから愛紗には宙の法(そらのほう)を覚えてもらうよ」 「分かった……で? 宙の法って何?」 「その世界にある物質に干渉できる術かな……愛紗の世界の言葉でいうと……。ちょっと待ってて」  ツヨは口元であれでもないこれでもないとブツブツ何かをつぶやく。  それと同時に、頭の中を何か見透かされいるような不快感を感じた。  もしかして、私が理解しやすいよう、知っていそうな言葉を探してくれているのだろうか? 「愛紗の世界の漫画でいうとサイコメトリー? 鑑定? 錬金術? ……みたいな。 物質に残された感情を読み取ったり、物質の性質を変えたりするとかな。“羅津銘(らしんめい)”を扱うなら、まずはこの法術を覚えた方がいいと思って」 「……なるほど」  とりあえず話を聞きながらうなずいてみた。  だがツヨが奨めてきた法術は結構凄いもののようだ。錬金術? 化学とか理科系の勉強をしないといけないのだろうか? はたして、学校の成績も人並みの私に覚えられるものなのだろうか? 「なんだか難しそうだね」 「シンを見つけるには必要な術だからね」 「そんなにすぐ覚えられそう? 勉強も必要そうだけど……」 「そんな難しく考えなくていいよ。基本は物質の情報や感情を感じ取れればいいだけだからさ。最低でも、物質からシンの零因子を感じ取れるようになってくれるとありがたい」  ツヨはそういうと、自分の額を私の額にくっつけた。 「ん?」 「ちょっと失礼」  ツヨは深紫の瞳を光らせる。  頭の中に何ともいえない不思議な感覚を感じることから、私に何かを送っているようだ。 「何? これ?」 「今、愛紗の頭と心の感覚を宙の法に適したものにしてる」 「え?!」 「いや、大丈夫。感覚を鋭くしているだけだから、ついでに“死の契(しのちぎり)”にあまり力が流れないようにする」 「え?! なんでもっと早くやってくれなかったの?」 「いや……これは結構な量の零因子が必要だったから、愛紗の世界ではできなかったことだよ。それに愛紗と僕にある程度の信頼関係がないと上手くできないんだ。拒絶されちゃってね」 「だってまだ2日目だし……」 「……ふふっ、そうだよね。でも、2日目にして愛紗は結構僕のことを受け入れてくれていると思う」 「まぁ……ツヨはモフモフで可愛いからね」 「そう、よかった」  ツヨは愛らしく微笑んだ。その姿は、ツヨの艶のある美しい白髪や、黒夢の花々の光の効果もあって、人ではない美しさを感じる。その微笑みはツヨの安堵感をやや感じさせるようなものだった。  私は自分でいうのもなんだが、人見知りはあまりしない。だが今回のことは、急に自分が死ぬと言われたこともあって、心の奥底ではツヨへの不満や怒りのようなものを感じていたのかもしれない。今は、それがわずかに払拭されたので、ツヨは安堵したのかもしれない。  多分、私の不安がわずかに和らいだのは、この2日間、ツヨが私のために尽力してくれたからだろう。  しばらくすると、ツヨは私の元を離れ、黒夢の花々がら一凛の紫の花を摘み取り、私に渡そうとする。 「愛紗、これをもって」 「……うん」  ――瞬間。  火花のように、頭の中に色んな情報が浮かんでくる。 “10万年前、第零世代、サクヤムラサキ、効果::感情緩和、暴走属性吸収。、容量:100万ロチ、調合薬① 鎮魂香:蕾を煮沸した湯に30分――” 「!!!」  その情報量の多さには少しめまいを覚える。 「――はぁっ」  特に痛みはないが、次第に眠気で意識が遠のいていくのが分かった。
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