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027-“咲夜御殿”とは何か(3)
※2021.9.5改訂:物語に合わせ、最後の行と「美少女」→「美少年」に修正しました。
※2022.2.28改訂:ツヨのセリフの符号を変更しました。テレパシーを使用している時は『 』、実際に話す言葉は「 」とします。
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「……やっぱりねぇ」
ツキカゲさんは特に驚いた様子が見られなかった。
テントの外では何かを探し回る物音が次第に大きくなっていく。
たまに”天外”という言葉が聞こえることから、やはりツキカゲさんが関係していることなのだろう。
――ゴトッ。
そんな中、茶々さんは手慣れた様子で、台の上に古い木箱を載せた。
「さぁ、ツキカゲ様。こちらへ」
箱の蓋に描かれた絵は……何が描いてあるか判別できないが……、大根の絵だろうか?
「……狸だよ」
ツキカゲさんは私にむかって恥ずかしそうに小さくつぶやく。
タロは別の意味で感心するようにうなずいていた。
「ツキカゲは絵や文字が暗号みたいだから秘伝の調合が知られないんだよね。まったくうらやましい限りだ」
「んもう、可愛いと言ってくださいな!」
茶々さんはツキカゲさんをフォローするようにそう言っていたが……やや逆効果のようにも感じられた。
――パカッ。
そんなやり取りを見ていると、箱が私たちの方に向かって、自動的に蓋が開いた。
ツキカゲさんの気配に反応しているのだろうか?
……中身……は、ミニチュアの模型が屋敷が広がっているが……これは咲夜御殿?
「うむ。愛紗、ツヨ。そのまま静かに箱の中身を見つめているんだよ」
ツキカゲさんは私たちの後ろで何かシュッシュと音を立てながら、両手で何かの印を組む。
――ジワッ。
すると、懐かしい痛みとともに私の”死の契”が静かに反応した。
私の横でツヨの毛もわずかに逆立つ。
『シンッ?!』
ツヨが思わずテレパシーで叫ぶ。
どうやらこの箱の中にはシンの存在を感じる何かがあるようだ。
いよいよ……シンに直接つながるような手がかりを見つけられるのだろうか?
――ジワッ。
気が付くと、私の周りの空間がみるみる箱の中の光景に侵食されていく。
……いや、これは私やツヨ、ツキカゲさんが小さくなっているのだろうか?
一方で、タロは箱の中の光景を見ることなく、テントの隙間から外の様子を伺っていた。
「ツキカゲ、僕はこの場に残って箱を持ち帰っておくことにするよ……僕ならあまり怪しまれないだろうし」
どうやらタロはこの場に残るつもりのようだ。
「いつも、すまないねぇ……」
――ジワッ。
「ではツキカゲ様、どうかご無事で――」
茶々さんは少し寂しそうにツキカゲさんに向かって深くお辞儀をした。
――ジワッ。
こうして私たちはタロと茶々さんに見送られながら、咲夜御殿の空間に静かに取り込まれていった。
******
……祭りの中で見た咲夜御殿の光景は外観しか見られなかったが……きっと内部はこのような空間が広がるのだろう……。
そう思わせるほど、私たちが取り込まれた空間は咲夜御殿のイメージそのものだった。
私たちは、楼閣の上空からゆっくりと舞い降りるように落ちていく。
足元には複数の楼閣と入り組んだ回廊……そしてその下には光の大きな渦のような流れがあり、飛沫のような音を立てながら、深い奈落の底に落ちていく様子が見えた。
遠くには私たちがさっきまでいたような市場のようなものも見える。
この光景は、咲夜御殿の奥に行かないと分からないような場所ではないだろうか?
「愛紗ぁ!」
すると少し離れた場所から、ツキカゲさんが私とツヨに向かって大きな声をだしていた。
「ここは我が一族に伝わる万化鏡の技術を使って生み出された世界でぇ、今の咲夜御殿の様子を疑似的に再現した世界だぁ! ここには私と契約をしたものしか入れないからぁ、しばらくここでゆっくりするよぉ! いいねぇ?」
そして、あたりをキョロキョロ見回すと、一つの大きな楼閣を指さして、急降下を始めた。
「愛紗ぁ! ゆっくりでいいからあの楼閣の最上階にある展望台まで降りるんだ! 私は一足先に結界をいくつか解除してくるからねぇ!」
……多分、あの速度は人間では耐えられないだろう。
私は、たまに体を広げて速度を落としながら、ゆっくりとその楼閣に向かって泳いでいくことにした。
「……ねぇ、愛紗」
ふと気が付くと、ツヨが私の肩に乗り、私に向かって小声で話しかけてきた。
「ここは……どう見ても本物の咲夜御殿の内部なんじゃないかなぁ……さっきまで見ていた咲夜御殿以上の高濃度の零因子を感じるよ……ここが単なる疑似的な空間とは到底思えないね」
やはりツヨも私と同じような考えのようだった。
「そうだよね……ところでシンはこの世界にいそう?」
”死の契”が反応したのだ。せめて手がかりくらいはあるだろう。
だが落下中、私は自分の”宙の法”に意識を集中させる余裕はなかった。
「……残念だけど、この世界にはいないね……でも”死の契”が反応したんだ。絶対なにかあると思うよ」
「よしっ!」
久しぶりのようなシンへの手がかり……場合によってはツキカゲさんにも協力してもらうことも考えよう。
「愛紗ぁ、こっちだよぉ!」
足元では、結界を解除したツキカゲさんが手を振りながら、展望台で待っている。
私は展望台に向かってゆっくりと着地するように姿勢を整えた――がぁ?!
「え? あぁ?!」
自分が思った以上に急速度で降下していることに気が付いた。
「んあああああああああああああああああ!!!」
なんとか体勢も整えようともしたが――間に合わないっ?!
「「愛紗!」」
――カッ。
ツヨは少し体を震わせると、白髪の美少年へと姿を変えていく。
そして、急降下する私の襟元をなんとか掴んで抱き上げると、ツヨに抱きかかえられた状態でツキカゲさんの脇を2・3回転しながら着地した。
――ガシャンッツ!
気が付くと、ツヨの心配そうな可愛い顔が目の前にある。
どこも痛くないことから、着地の時の衝撃はツヨが全部受けてくれたのだろう。
「いたたた……愛紗……大丈夫?」
「……あぁ。ごめんツヨ、ごめんね」
その様子にツキカゲさんも唖然としている。
……どうやら人型のツヨを紹介するにはいい頃合いのようだ。
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