029-“咲夜御殿”とは何か(5)

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029-“咲夜御殿”とは何か(5)

「ねぇ、ツヨ?」 「ん?」 「ところでさ、舞人形……って何?」  私たちは、曲弦たちを追い、舞人形がある楼閣に続く回廊をただただ急ぎ足で向かっている。  遠くで聞こえる歪んだ音色は、少しでも耳に入ると気分が悪くなりそうなものだった。 「……舞人形は、咲夜姫(さくやひめ)が熟練の武人たちの戦闘技術を定着させた人形なんだ」 「咲夜姫が?」 「うん、僕の護身用として造られたものの一つさ」 「え? ……ってことはもしかしたら私たちがそこに行ったら攻撃されるかもしれないってこと?」 「まぁ、あの人形で何をするかまだ分からないけどね……その可能性はあるかも」  どうやら主人を殺した相手がまだ必要とされていたことが余程気に障ったらしい。  ……でもツヨ用の護身用の人形なら、ツヨを襲うことはしないと思うのだけど……。 「戦闘用の人形ねぇ……なるほど! ど~うりで、細工がしやすかったはずだ!」  ツキカゲさんが気になることをいった。 「細工……ですか?」 「あぁ。私と母上もあれは御先祖の子供用の玩具だと思っていたんだよねぇ。ただ、中身が変なところで空洞でねぇ。ちょうど回路が組み込めそうな感じだったから、ここの護身用にって改良したんだよぉ……まぁ、結局起動はしなかったんだけどねぇ」  なんだか嫌な予感がする。 「……と、なると、僕の命令には従うかどうか」  的中したっ!!!  つまり、曲弦が舞人形を使って、ツヨに何かするかもしれないってことか。 ――ギーコギコギコギコギコ、ギョギョギャギャヴァアアアアアア  徐々に大きくなる音色にその会話は上手く聞き取れない。  足元の振動も、その音源に近づくにつれ、次第に大きくなっているようだった。  上手く歩くこともできない。  刹那――ツヨの紫の瞳の底が大きく光る。 「始祖:宙の三(そらのさん)悠遠隔離(ゆうえんかくり)――」 ――ッシン  瞬間、あたりの音と振動がほとんど感じなくなった。 「とりあえず、外と空間を切り離したよ」  ……もっと早くやればいのに。 「むぅ、何が起きるか分からないのに宙の法(そらのほう)を気軽に使えないよ」  私の心を読んだツヨがこんな状況の中でも頬を膨らませた。  そんなツヨに少しホッコリしてしまう。  ……思わず、頭を撫ででしまった。 「いやぁ~、あの悲鳴の中で戦うのは辛かったから助かるよぉ。他に何か使える術はあるかい?」 「僕の宙の法は補助的なものが多いので……あとは個人の戦闘能力によりますね」 「分かった。じゃあ、何かあれば前衛には私が立つよ」  ツキカゲさんの紫の髪が少し揺れた。 「咲夜鬼神流(さくやおにかみりゅう)紫電雷装(しでんらいそう)」 ――パチパチパチ。  すると花火のような音がたち、ツキカゲさんの身体が電流のようなもので覆われる。 「この雷があの人形にどこまで通じるか……、フフフ、自分が改良したものは、やっぱり自分で破壊しなくちゃねぇ」  ツキカゲさんは妖しい笑みを浮かべた。   「で、ツヨちゃん。作戦は?」 「相手の様子にもよりますが、攻撃してきたら相手の動きをツキカゲさんに集中させてください。身体能力の操作は僕の宙の法で行いますから」 「了解」 「それと同時に僕は相手に弱点がないか探してみます……で、もし破壊が難しそうなら――」  ツヨとツキカゲさんは淡々と話を進めていく。 「え?! 私には?」  もちろん、私もここまで来て黙ってみているつもりはない。 「愛紗は……どこかに隠れていて☆」  ただ、ツヨは私をもしもの時の戦闘に参加させる気は全くないらしい。  妙に可愛らしい仕草で私を言いくるめようとしていた。 「……ツヨちゃん。過保護なのはいいけど、今回は参加してもらった方がいいんじゃないのかい?」  ツキカゲさんも少し呆れているようだった。 「でっ、でもぉ、”死の契(しのちぎり)”がどう反応するか分からないんだよ?」 「いや! もしかしたら死ぬかもしれないくらい危険なんだよね? だったら今、私も参加したほうがいいって!」   心の中でも意思が固いことを主張してみる。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」  それを察したようにツヨも私を見つめたまま暫く考え込んでいた。 「~~っあ~わかった! もし出来るなら、僕の術の動きの真似をしてっ!」 「うん、ありがと」 「た・だ・し! 僕の後ろでだからねっ!」  ……ツヨはチッチッチと人差し指を揺らしながら、私に対して念を押した。  なんだか大事な戦いになりそうなのに、その仕草が可愛すぎて場を和ませてしまうのがなんともいえない。    だが、ツヨの言葉は、明らかに私の力不足を示している。  ならせめて、迷惑にならないよう、この後はツヨの指示に素直に従うようにしよう。 「よしっ! ならすぐこの扉を開けようかねぇ」  ツキカゲさんは数百メートル先の大きな引き戸に向かって走り出す。  それには2~3メートルある大きな一枚の札が貼られていた。 「じゃあ、開けるよぉ」 ――ベリッ  それはまるでガムテープをはがすようだったが―― ――ビュオオオオオオオオオォ  封印だったのだろう。その突風は少し後ろに倒れそうな勢いだった。
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