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004-手がかり(ツヨ)に問い詰めてみる(2)
そういえば、どうでもいいことに気が付いた。
「それにしても、ツヨはこの世界のこと少し知ってるんだね『歯ブラシ』とか」
「それは霊界にもあったよ。1500年前だけど」
「ん?」
「霊界にも人に似たものはいたんだ……大勢ね」
そういうとツヨは辛そうな顔をした。
でも私がツヨと出会った霊界は誰もいなかった……これ以上聞くのは少し怖い……。
「昔の霊界は、この世界よりもずっと進んでいたと思う。ここには念話霊媒機も、悠遠羅針盤もない」
「え? 何?」
「両方とも、人に似た下位の存在が発明したんだ。念話霊媒機は会話しなくても相手の考えが一瞬でわかる…映像で頭の中に流れ込むから間違いなんてない。悠遠羅針盤は相手の居場所がどこにいようと零因子で分かるんだ……もう霊界にはないけど……」
「スマホやGPSが進化したみたいなものなのかな」
しかし、なぜそんなに霊界の技術は進んでいたのに、誰もいなくなったのだろう。
「……死ぬか、他の霊界に移動したからだよ。霊界は数多くあるんだ」
そうか、ツヨは私の考えが分かるのだった。そういうことであれば、ツヨに聞くのをためらう必要はない。
「何が起きたの?」
「あまり言えないし、全ては分からない……。でもとても悲しいことが起きたんだ」
これは、これ以上聞かないほうがいいかもしれない。話したがらないところをみると、私の未来の選択が間違う可能性があるのかもしれない。
この時、ふと別の考えも浮かんだ。
「霊界にはツヨ以外に誰もいないの?」
「うん」
「なんで今まで離れなかったの?」
「神獣がいなくなると、あの世界の崩壊が少しずつ始まるんだ。すると連鎖的に他の霊界の崩壊も始まる……それは、どこまで波及するか分からない。僕とシンは双子だから、どちらかいれば世界の崩壊は防げるんだけど―」
「じゃあ、なんでこの世界に来たの?!」
つい間髪入れず、ツっこんでしまった。
「君にシンの零因子を感じたから……、シンを見つける可能性に賭けてみたんだ……正直、愛紗には来ないで欲しかったけど……『死の契』の発動条件は、第237霊界の零因子がきっかけだったんだ」
「あぁ……」
私は、なぜあの世界に行ってしまったんだろう。行きたくて行ったわけでもないのに……。
「……なにか、きっかけがあったんだと思うよ」
またツヨが私の考えを読んだらしい。何か聞こえない方法はないものか? さっきのムキムキマッチョとか聞こえていたのだろうか。これが思春期の男子だったらどうするつもりなのだ。
「ねぇ、おにーちゃんの考えは読めるの?」
ふと、ツヨに聞いてみた。あのおにーちゃんのことだ、きっとツヨへの想いが溢れ出ていると思う。
「この世界では、零因子をあまり無駄遣いしたくないから、自然に流れてくるものしか考えを読んでいないよ。……おにーさんからは、こう、温かく、熱いような想いくらいしか分からない。きっと優しい人なんだと思うな」
「……多分、違う感情も含まれていると思うよ」
「え?」
いや、これ以上は考えさせないでくれ。もう、心を読まないでくれ……。
「愛紗の考えは隅から隅までよく分かる。きっと素直なんだね」
「……はっきりバカっていえばいいのに」
「……」
正直、私がバカなのはわかっている。私はナイスバディ美少女の称号があればそれでいいのだ。
話を本題に戻す。
「で、何がきっかけだったの?」
「多分、この世界にあった零因子を帯びたものに、上位もしくは中位の存在がきっかけを与えたんだと思う。それに愛紗の『死の契』が反応して巻き込まれたんだろうね。そうでないともっと沢山の人たちが、あの霊界に行くことになるからね」
零因子を帯びたもの? 上位もしくは中位の存在? この世界にツヨやシン以外に何かいるのか? ツヨの実力はまだ分からないが、この世界では考えられないことをしている。それが何体もいたらたまったものではない。
「他の霊界に渡った存在がいるんだ。きっとこの世界にも、シン以外の第237霊界に縁のあるものはあるよ……。ただ何かは分からないけど……」
「ちなみに上位の存在ってのは、ツヨとシン以外いるの?」
「うん、僕たちより上の存在はいないよ」
「そう」
よかった、ひとまず安心した。
「ただ……」
何? ツヨがすごく言いずらそうにしている。
「……僕とシンは『上正位』なんだ、『上従位』は四体いるよ、『中正位』は―」
「はぁ???!!!」
思わず、すっとんきょうな声をあげる。
上位の存在は意外と多かったのだった……。
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