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007-葛葉小路商店街の怪(3)
私がよく行く場所は他にもある――それは本屋だ。今はスマホで電子書籍とか読めるかもしれないが、私は、断然、店頭での立ち読み派だ。
本屋に近づくと、商店街四大美人の一人、三久凜さんがいた。
三久凛さんは、私を見つけると、大股でずんずん歩いてきた。
「愛紗あぁあ。また立ち読みに来たのかぁ」
「お疲れ様です!三久凜姐さん!!!」
私は三久凜さんに向かって敬礼した。
「あぁっ?!、なめてんじゃねーぞ!」
三久凜さんは私の胸ぐらを掴み睨み付ける……仕方ないよね。立ち読みの常習犯だもんね。
三久凜さんは立ち読みを許さない……それなら書籍に立ち読み防止シートつければいいのに、それは主義に反するらしい。
だが、茶髪ウェーブの美人に怒られたい人は……それはもう多いらしい。私がお叱りを受けている間にもチラチラこちらを見ながら立ち読みをしている男女の多いこと……。
「あっ、あの……」
ツヨが私の後ろで困っている。
「あん? なんだぁ、テメーはぁあああ」
「……私の友人ツヨちゃんです」
私は、三久凜さんにツヨを紹介する。
三久凜さんは私の胸ぐらを放すと、ツヨに近づいていった。
「あ、あの……暴力はよくないと思います」
ツヨは困っている。やや涙目だ……いや、君、神獣でしょ?
「あぁっ!?」
三久凜さんは、ジリジリとツヨに近づくいてゆき……
――そして、両手でツヨの顔を優しく包み込んだ。
「ん?」
……何故か三久凛さんの顔がほんのり赤い。この展開には私も驚きである。
「ツヨちゃん……だっけ? だめだよ、こんな子とつきあっちゃ。バカが移るだろ?」
「……はぁ」
ツヨは三久凛さんに見つめられ、少し困っている。止めた方がいいのだろうか? でも怖いからやらない。
「はぁ~。でも可愛い子だね、この子」
三久凜さんは、次にツヨを抱きしめ、グリグリと撫でまわしている。
……なぜ、三久凜さんには、ツヨの色気が通じるんだろう……。こんな恍惚とした三久凜さんは初めてだ……あっ! まわりのお客さんが羨ましそうに見てるよ……ツヨを。
「……ねぇ、三久凛さん」
「ん?」
嘘?! 三久凛さんがちょっとエロい……。
とりあえず、私は一呼吸おいて、仕切り直すことにした。
「ツヨが三久凛さんのお店の中を見たいんだって……いい?」
「……いいよ」
三久凛さんは静かに頷くとツヨを抱きしめたまま、店内に入っていった。
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店内。
三十坪程度の店内は、洋書から雑誌まで幅広く揃っていた。その品揃えの凄さは、高校生の私にも分かるものだった。
普段の私は、漫画や雑誌、この他に画集も見ている。画が綺麗だからだ。
「ねぇ、ツヨちゃん。この新刊おすすめだよ。読んでみる?」
「あ……えーと」
三久凛さんは、ツヨを抱きしめたまま店内を案内している……なぜか、ツヨには立ち読みを許してくれるらしい。
「三久凛姐さん! ツヨは店内全部の本を一通りみたいって!!!」
「あいよっ!」
「ええええええ?!」
三久凛さんは、喜んでツヨを抱きしめたまま案内し続けた。
……8時まで残り4時間……ツヨにはゆっくり店内を巡ってもらおう。
私は雑誌の立ち読みを始めた。
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時間は6時を回った頃だろうか? 三久凛さんはまだ、ツヨに店内を案内している。
私はついカウンター横の椅子でウトウトしてしまい……そして昔の夢を見た。
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