プロローグ

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プロローグ

 油の臭いが立ち込める、どす黒く汚れ尽くした都会の裏通り。無機質な回転を続ける赤い光が、嫌な雰囲気で周辺を満たしていく。  裏通りとなると、安っぽいネオンの光が照らす範囲以外は、暗闇の中だ。悪い事以外、起こりはしないだろう。  足を踏み入れないことが、賢明であることに間違いは無い。  分かってはいるが、そんな所に入り込んでしまうのも、人間の性なのかもしれないが、俺の場合は違う。好き好んで入り込んでいる訳ではない。仕事と言う、資本主義が生み出した悪意に導かれるからだ。  俺の名前は、野地 龍也(のじ りゅうや)。私立探偵をやっている。言葉の響きには、アウトロー的なかっこよさを感じるかもしれないが、やっている事は、浮気、身辺、行方不明人の調査と、人の不幸で飯を食っているようなものだ。  俺は家出をした少女の調査を依頼され、その少女が都内のラブホテル街に出没している情報を掴み、調査をしていたら、闇に紛れて建っている怪しいバーのような店舗の裏で、発見をしたと言う訳だ。  だが、その発見は喜ばしい物ではなかった。死体とのご対面だったからだ。少女の死体の隣では、虚ろな表情で空を眺め、ケラケラと不気味に笑い続けている少年がいたと言う訳だ。  俺は少年を捕えて、警察に連絡を入れた。犯人はこいつで間違いない。ヤクでもやり、おかしくなって、犯行に及んだのだろう。  救われないな……。  俺は煙草に火を点けて、深く吸い込み、溜息をつく。 「野地く~ん。犯罪に巻き込まれやすい体質なのかな」  茶色に染めた長い髪を後ろで縛り、嫌らしくも鋭い目つきで、黒いスーツを着こなし、黒のコートをはおった女が、ニヤニヤと笑いながら、話しかけて来た。  彼女の名前は、水氷 沙耶(みずごおり さや)。刑事だ。普通に笑っていれば魅力的な女性だが、鋭い顔つきからの突き刺すような目つきと、厳しい表情、笑っても薄ら笑いで、嫌らしさしか感じられない。 「俺が事件を呼んでいる訳じゃない。たまたま、事件の現場に出くわしただけだ」  素気なく答える。 「たまたまね~。まっ、通報に問題があった訳では無いし。犯人は逮捕されたから事件は解決済み。後片付けは他に任せて、署に戻るかな」 「真面目に仕事に取り組めよ」 「失礼しちゃうな~。これでも、結構、真面目にやってるよ」  彼女は俺に背を向け、この場を去った。  俺に何か用があったのだろうか。あいつの行動は全く読めないな。嫌な感じの女ではあるが、持ちつ持たれつの関係でもある。腐れ縁ってやつかもしれないが、情報は調査や捜査において、絶対に欠かせないものとなるからだ。  これから、俺は警察に色々と事情を聞かれることになるが、慣れているし、何の問題もない。俺は事件の発見者であり、犯罪者ではないのだから。  ただ、依頼者に今回の件の報告を行うのは、気が引けるな。それに、依頼料も請求しなければならない……。  それだけだ……。
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