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依頼
警察から色々と聞かれたが、翌朝には自由の身になった。家出少女を殺したのは、俺ではないからな。それに、犯人を掴まえてから、通報をしたのだ。感謝状くらい貰いたいものだが、上質な紙を一枚、貰ったところで腹の足しにはならない。
家出少女の捜索の依頼料は、落ち着いてからで良いだろう。俺は事務所に戻り、ソファで仮眠を取ってから、事務所を開く。
午後の気だるい光が事務所の中に刺し込み、空間を舞う細かい埃を、しっかりと露わにしていく。
コーヒーメーカーのスイッチを入れ、一日の始まりでも、告げるかのような気分に浸る。
薄汚れたステンレスの机を前にして、コーヒーを飲みながら、菓子パンを食べ、何時もと変わらない、一日の始まりを迎えるのだ。
今日は特に予定は入っていない。ソファで寛ぎ、何もせず一日を過ごすのも悪くない。そんな気持ちでいたら、平穏を打ち破るかの如く、一人の女が事務所の中へ、遠慮無しにズカズカと入ってくる。
水氷だ。
「暇でしょ」
まるで自分の部屋にでもいるかのように、ソファに腰を下ろす。
「コーヒーが欲しいな」
両肘をソファに掛けて、両脚を組み、喫茶店で寛ぐかのような感じで、俺に注文をしてくる。
「何時も勝手に飲んでいるだろ」
水氷は薄らと笑みを浮かべ、立ち上がり、勝手にカップにコーヒーを注ぎ、ソファに座り、コーヒーを飲みだす。
「何か用か。用がないなら署に戻って、真面目に仕事をしたらどうだ」
「野地くんが犯人を捕まえてくれたからね。暇なの」
「給料泥棒だな」
俺は微かに笑みを浮かべながら、煙草を咥え、火をつける。
「禁煙なんだけど」
「俺の事務所だ。禁煙にした覚えは無い」
「癌になるよ」
「確かな根拠は無いよな」
水氷と意味の無い会話を続ける。気だるい午後を過ごすには、良い暇潰しになるかもしれない。
水氷もそう思っているかもしれない……。
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