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接触
俺は駅に向かうために、やたらと忙しく歩き続ける人間達で埋め尽くされたメインストリートを歩く。
車の通り過ぎていく音が響くたびに、冷たい風に叩かれ、歩いているのが嫌になってくる。タクシー代なら経費で落ちるな。目的外使用ではないのだから、問題はないだろう。
俺は右手を上げ、タクシーを止めて、乗り込む。
「この通りを真っ直ぐ行ってくれ」
目的地を告げずに、あてのない旅に出るかのような指示を出す。
後部座席で膝を組み、両腕を組み、バックミラーを睨み続ける。
「そこの十字路を左だ」
十字路に近づき、スピードを落とし、ウインカーを下げ、左に曲がる合図を出す。
「申し訳ない。真っ直ぐだ」
運転手は慌てて、ウインカーを戻し、真っ直ぐに進む。
左に曲がる黒い車がサイドミラーに写った。
駅が見えてきた。
俺はロータリーの手前で、止まるよう指示を出す。
タクシーに金を払い、タクシーを降りるが、直ぐにタクシーに乗り込み、ロータリーを回るよう指示を出す。
ロータリーを回り、駅の逆方向へと向かいだした時点で、車を止めるよう指示を出す。
「お客さん。嫌がらせですか。いい加減にしてくださいよ」
運転手が怒り出した。この辺が限界だろう。俺は謝りながら、タクシーを降りる。
黒い車が俺の目の前を無造作に通り過ぎていく。
俺は一瞬笑みを浮かべるも、駅に向かい、駅の構内を走り抜け、一気に地下鉄の乗り場へと向かう。
電車を待つ人々の中へと紛れ込んでいく。
電車が止まり、ドアが開くと同時に電車に乗り込むが、ドアが閉まる瞬間に、電車から飛び出す。
右側を向き、睨むかのような視線を送りつける。
そこには、鼻の下に整った髭、彫の深い顔つきで、年齢は三十代後半、身長は百八十センチくらいで、かなり鍛え込んだ体つき、ダークなスーツ。
記念撮影もさせてもらった。
面が割れたら、これ以上の尾行は無理だろう。それと、反応が遅れたもう一人の男は残念だったな。電車の中だ。
俺は、無表情で立ち尽くす男に、にやりと笑みを浮かべ、背中を向け、喧騒とした地下鉄の駅を後にした。
事務所を出た段階からつけられていた。
あいつらは何者だ。
尾行のやり方は手慣れたものだった。髭の男の目つきも、尋常ではなかった。
かなり厄介な事を引き受けてしまったと言うことか。
尾行をしていた二台の黒塗りの車については、ナンバーを控えてある。尾行をしていた男達のうちの一人は写真を撮った。水氷に調べてもらうか。どうせ、暇を持て余しているのだから。
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