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先ずは依頼主から会うよう指示された人間に会ってみることだ。その人間の名前は、弘崎 圭司(ひろさき けいじ)。国家公務員のエリートさんと聞いている。そんな人間がどうして、こんな連中に狙われているのか。
本人に会ってみるしかないだろう。
俺は地下鉄を何度も乗り換えたりして、通常ではあり得ない方法で指示されたビジネスホテルへと向かう。新手の追跡者は見当たらなかったが、用心するに越したことはない。
依頼主から指定された部屋へと向かう。
エレベーターに乗り、三階で降り、狭い廊下を歩き、303号室の前で止まる。右、左と見渡すが誰もいない。
俺はドアをノックし、依頼主から指定された言葉を話す。
「決して蓋をしてはいけない」
ドアがかすかに開き、弘崎さんから中に入るよう促される。
俺は弘崎さんを押し込む感じで、部屋の中に素早く入っていく。ベッドに腰を下ろし、話を聞く。
話の内容を簡単にまとめると、偶然に国の各省庁の機密費の情報を目にしてしまい、一人で色々と調べていたら、政権交代では済まない所まで情報を掴んでしまったとのこと。自分ではどうしていいか分からなくなってしまい、最も信頼の置ける先輩に相談したら、このような状態になってしまった。とのことだった。
俺に国を敵に回して戦えということなのか。冗談じゃない。命が幾つあっても足りないだろう。
よりによって、弘崎の頼りになる奴があいつだったとは……。
早速、依頼主のあいつに連絡を取る。
「国を敵に回すような仕事は、お断りしたいんだがね」
「そんな事はありませんよ。弘崎を守ることは、国の将来に繋がることですから」
抜け抜けと綺麗事を並べてきやがった。
「死にたくないんでね。他に回してもらおうか。何なら、俺の知り合いに回そうか」
「あなた以外に頼める人なんていませんよ。報酬は弾みます。やれる所まででお願いします。できる限りの支援もいたしますので」
「できる限りの支援。嘘はないな」
「今まで嘘をついたことはないでしょう」
電話を掛けながら、弘崎の何かに怯え、不安に満ちた表情が視に入る。
「引き受けてもらえますよね。こちらとしても最善を尽くしますので」
最善を尽くす?
どんな最善を尽くしてくれると言うのだ。
だが、ここで断って俺の無事が保証されるとは限らないのだ。
既に、尾行をされ、俺の正体は相手側に割れている。下手に身を引くのも、かなり危険な状態ではあるのだ。
乗り掛かった舟か……。
「分かった……。引き受けよう。最大限の協力をしてもらうぞ」
「分かりました。よろしくお願いします」
「それと、これからの連絡は全て俺の方からする。お前は俺に連絡をするな」
「分かりました」
電話を切った。
あいつの電話が敵に盗聴されている恐れがあるからだ。あいつからの連絡を貰って、間もないのに敵に尾行をされたと言うことは、そう推測して、間違いないだろう。
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