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俺は狭い部屋に入れられたが、水氷と一対一で話をすることになった。
「野地くんから依頼された件、調べたけど、妙なことばっかりなのよね~」
「どこが妙なんだ。教えてもらえないか」
「野地くんの情報も欲しいな~」
そう来ると思った。一筋縄ではいかない件だ。今後の事を考えて、多少は共同戦線を張った方が良いかもしれない。
俺は黙って頷く。
「先ずは自動車の件、全て事件性のない車。持ち主も一般人だったわね」
「一般人?」
俺は驚きを隠すことが出来なかった。あり得ないだろう……。
「それと髭のイケメンさん。A商事で働いているサラリーマン。他の二人も同じ会社で働いていたわね。裏は取ったよ」
「俺をからかっているのか?本当にしっかりと調べたのか」
「酷いな~。私を疑うとはね~」
水氷は笑みを浮かべるものの、表情は鋭い。
「いや……。狐につままれたような結果だったからさ」
「私も驚いたよ。野地くんの情報から考えると、あり得ない結果にね」
「それにしても、髭の男の仲間の情報、速すぎないか」
俺はふと思いついた疑問をぶつけてみる。
「三人とも取り調べには大人しく応じたからね~。人違いで殴り掛かってしまって、申し訳ないことをしてしまった。と言っていたかな」
「人違いで殴り掛かって、空手黒帯の俺と対等に殴り合ったのか。笑える話だな」
思わず笑ってしまったが、身体中に痛みが走り、笑い声をあっという間に止まってしまう。水氷が息を軽く吹くように笑う。
「以前、仕事の関係でトラブった相手と間違えてしまった。と言っていたよ」
「それを真に受けているのか」
「信憑性がないから、こうしてお話をしているんだけどね~」
その通りだ。真に受けていたら、刑事失格だ。
「野地くんの情報が欲しいとこかな」
そう来たか。ここで真実を話す訳にはいかない。
「俺はある人物を探して欲しいと依頼された。その人物は、重要な仕事を進めている途中で失踪をしてしまったと言うことだ。その仕事はその人物がいなくては、進めることが出来ないとのことだ。その人物が進めていた仕事の内容については、聞いていない」
「その人物、誰だか教えてくれないかな」
「悪いが今は教えられない。時間を貰えないか?依頼主と相談をしてから決める。俺の手に負える件ではなさそうだからな」
俺はスラスラと嘘を並べていく。依頼主を話さないというのは、こちらの鉄則なので、聞いてはこないだろう。
「依頼主と相談ね~。嘘じゃないよね~」
「相談をしてから、今後の方針を決めることになる。勿論、依頼主には事の経過を話して、警察に相談することを進める」
「素直過ぎるね~。野地くんの情報も信憑性に欠けるね~」
「とにかく依頼主と相談をする時間を貰えないか。結果については、必ず連絡をする」
俺は冷静に淡々と語る。水氷の挑発には乗らない。
「今日は、これ以上は無理かな~。仕方ない。解放してあげる。一応、被害者だからね~」
言葉の何処かに棘をしこまないと気が済まないのか。ここで、頭に来ても、俺が不利になるだけだ。ここは素直に応じておいた方が得策だろう。
俺は会釈をして、警察を出ていく。
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