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危険車を止めたところまではよかった。腹を揺らしてなんなら叩きながら口笛でも吹くうな気軽さで俺は運転手へと向かった。
汚ならしい金髪に唇ピアスと首にタトゥーというガラの悪そうな横顔がそこにはあった。同乗している者たち(五、六人くらいか?)もそんな感じだった。
俺は彼らの見た目に別になんとも思わなかった。いちいち外見で驚いていたらきりがない。水着姿で町をぶらつくマダムを保護したこともある。けど、あの集団には、多少危険を察知したほうがよかったかもしれない。
なんと、運転手は、「もしもーし」と俺が窓を叩くや、車を発進させたのだ。
ああ。俺が俊足だったら、止められたのだろうか。走りだす前に車を掴むなんて芸当もタイヤを銃で破裂させることもできやしなかった。
「安井さん! 早く! 戻れ!」
あっけにとられていた俺は、川口の叫びでようやくのろまな体を動かして、パトカーに乗った。
そのあとは悲惨だった。
追いかけた車はタクシーとぶつかり、バイクとぶつかった。それでようやく車は止まったのだけど、乗っていた者たちは俺たちに催涙スプレーをかけて逃げていった。車には薬物使用の痕跡が残っていて、どうやら彼らは薬物のことで捕まるのを避けようと逃げたらしかった。
車を逃がして事故を発生させ、犯人も逃したことで、俺は厳重なお叱りを受けたのだった……。
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