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家に帰ると、お父さんがお母さんのつめをみがいていた。
「ぴっかぴかのつめにしてあげるからね」
ぴっかぴかぴっかぴかと、楽しそうに口づさみながら、お母さんのつめにガラスのつめみがきをあてている。
ガラスのつめみがきもぴっかぴかで、カーテンをとおってきた太陽の光が反射してぴかりと光った。
「ぴっかぴかぴっかぴか」
お母さんはお父さんといっしょに声をだして、リズムをとってうなずいている。うなずくたびにロッキングチェアがゆれている。
ボクにはなんだかジュモンやオキョウのように聞こえてくる。意味がわからないけどきっといいことがあるもの。
毎日くりかえされる同じ言葉はつまらなくて、耳に入れるのはもうあきた。入れたくなくて、頭に入ってこない言葉は、言葉じゃなくて、わけのわからないジュモンやオキョウだ。でも、きっといいことがある言葉。お父さんとお母さんは笑って言っているから。
「おかえり。健太もみがこうか」
お父さんがボクに近づいてきた。
本当はイヤだ。だって、つめがぴっかぴかだとマニキュアをぬってるって、学校でいじられるのがはずかしい。だけど、ぴっかぴかはいいことだし、ぴっかぴかをイヤがるとお父さんが悲しそうな顔をするから、やるしかない。ランドセルみがきだってそうだ。
ボクの手をお父さんがつかんだ。すると、お父さんは手を止め、ボクの顔をのぞきこんできた。
「イヤかい? 顔がぴっかぴかじゃないね」
お父さんにボクの気持ちがバレてしまっていた。びっくりして、ボクはすぐに笑顔にしてみせた。
お父さんは悲しまなかった。くすりと笑って、ボクのかみをくしゃりとなでた。
「そろそろ健太に家訓のことを伝えようか。もう小学生だからわかるよね」
お父さんはそう言ってソファにこしかけ、語りだした。
「実は、ウチの家訓はぴっかぴかでね……」
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