ぴっかぴかのまぬきちさん

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 むかし、まだ戦国時代だったころ、万吉というご先祖様は農民だった。  万吉はまぬきちと呼ばれていた。まぬけのまぬきちと。  まぬきちはいつも「ぴっかぴか」と言っていつもなにかみがき、掃除をしていた。気づけばいつも同じ言葉を言い、同じことをしているまぬきちを人々は変人だとまぬけだと思った。  でも、まぬきちはちゃんと畑仕事もしていた。「ぴっかぴか」と言って耕されたまぬきちの畑には、雑草が一本もはえず、作物は立派に実っていた。  だけど、「ぴっかぴか」とつぶやき続けるまぬきちは人々にとってきみょうでまぬけだった。  そんなある日、まぬきちは(いくさ)に行くことになった。戦国時代は土地を守るために農民でも戦わなければならないのだ。  (やり)と簡易的な(よろい)と笠と……足軽(あしがる)として必要なものをまぬきちはたんねんにみがいて、ぴっかぴかにした。  まぬきちのつやつやの武具は太陽のもとでぴかぴかだった。 「まぬきちのやつ、またぴっかぴかにしたのか……」  武具にあたって照らし返す光がまぶしすぎて、周りの足軽仲間は迷惑そうに目を細めるしまつ。 「なんだ?」  鋭い光が馬上の大将の目にもはいった。  大将が気になって見ると、そこには、鏡のように辺りを照らし返す男がいるではないか。 「おもしろい。あいつを足軽の頭にしてみろ」  と、まぬきちは足軽のまとめ役をすることになった。  そんなまぬきちが指示することはただ一つ。 「ぴっかぴかぴっかぴか」  そんなまぬけな命令に、足軽たちはため息をつかざるをえない。 「なんだって、こんなことをしなければ……」 「まぬきちが足軽の頭だからしかたないさ」 「おらたちはもう敵にやられておしまいだ」  足軽たちはいやいやながら、槍を鎧をぴっかぴかにみがきあげた。  そして、戦が始まる時がきた。ぴっかぴかの足軽たちは戦の最前線にならんだ。  まぬきちは戦うのが怖くてふるえた。頼りないまとめ役を見て、足軽たちはやる気をなくした。  敵の足軽はわぁわぁ声をあらげ、土煙をあげ、足音をとどろかせて突進してくる。が、まぬきちたちは槍をかまえたまま立ちんぼになっていた。 「早う行け!」  大将がどなる。  けど、効果はまったくなかった。まぬきちはすっかりふるえ上がっていた。足はすくんで動かなくなっていた。  もうだめだ――、だれもがそう思った。  そのとき、敵は足を止めて、顔に手をあててうめいた。  なんと、まぬきちたちの槍や鎧に太陽光が反射して、ぴっかぴかの足軽集団は巨大な鏡のように光を放っていたのだ。 「これは好機だ! 行けぇ!」  大将が鼓舞して、まぬきちたちは敵陣になだれこんだ。  戦は勝った。まぬきちのぴっかぴか作戦(?)のおかげで勝った。  まぬきちは上の武士としての地位をもらえることになった。けど、断って農民として生きることを選んだ。もう怖い思いをしたくないからだとさ。
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