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ぴっかぴかのまぬきちさん。ボクのウチの屋号は変だ。
令和になっても、この集落では、屋号でその家の人を呼ぶ。ボクには山田健太という名前があるのに。屋号で言われるのもおかしいのに、その屋号も変で、ボクはその名で呼ばれるのがイヤだ。
「じゃーな。健太」
「うん。またあしたー!」
学校からの帰り道、田んぼに囲まれた集落が近づき友達と別れると、ボクはため息をつきたくなる。
友達や先生はちゃんとボクのことを健太君とか山田さんとか呼んでくれるのに……。
「おかえり。今日もランドセルがぴっかぴかだねぇ。さすがぴっかぴかのまぬきっさーのせがれだ」
集落に入ったとたんに、近所のおじいさんに屋号を言われた。正しくは“まぬきちさん”だけど、みんな“まぬきっさー”と言う。
「ただいまー」
あいさつは大事ってお母さんが言っていたから、とりあえず笑顔で返して進む。
なにもかもあのおじいさんが言ったことはイヤだ。ぴっかぴかのランドセルだって? ボクは四年生でもう一年生じゃないのに、ぴっかぴかのランドセルだとほめられるのはイヤだ。
でも、毎日みがいているランドセルはたしかにぴっかぴかで、ぴっかぴかのまぬきちさんという屋号の家に産まれたボクはぴっかぴかのまぬきちのせがれでしかなくて、おじいさんは間違ったことを言っていない。
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