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子供の頃は、平日は母と二人のアパート暮らし、土日は母の実家、祖母が一人で暮らす家で過ごした。2つ、私には過ごす家があって、結構、その生活がお気に入りだった。
山の中の一軒家で祖母は一人、畑仕事をしていた。
母と私は、そこから車で40分ほどの街に住み、週末を母の実家の山の家で過ごす。夏休み、冬休み、学校が長期の休みの日も、私は祖母に預けられていた。だから畑仕事の手伝いを小学生の頃はよくやった。
「山仕事もやらにゃいけんのだけど、なかなか手が回らんねー」
祖母の口癖で、家の裏山を見ながらいつもそう、こぼしていた。
あれから30年近くが経って、祖母も母もいない。
けれど、山はある。
今は私の山である。
山の麓の一軒家を借りて、私は生活をしている。
自営業、様々な清掃作業を請け負う仕事。山に家はあったが、麓の一軒家に住んでいるのは人口8万ほどの街まで、車で30分で出れるから。
掃除の仕事がない日は、山の中、畑と山仕事で忙しい。
その他、時折はいるゴミの埋め立て仕事で忙しい。
田舎暮らしはのんびりできるなんて、たぶん、それは嘘だ。
午後2時、3階建て2DKのアパート、不動産会社から請け負っている引越しあとのクリーニングの作業中。
スマホの着信が鳴った。画面には「5」と表示されている。五十嵐さんからだ。私のもうひとつの仕事のお客は、名前を登録しておくことに、ちょっと問題がある方ばかりだから、数字や記号で識別している。偽名を使うのが当たり前の業界だから、考えすぎであることはわかっているけれど。まぁ、用心にこしたことはない。
「5」は五十嵐さんであり、10年以上の付き合いだ。
「はい、もしもし」
「おー。中村さん、元気―?」
「ええ、変わりなく」
「そー。今晩さぁ、時間ある? 伊勢崎まで出てきてほしいなぁ」
「時間は?」
「23時で。今成運送って会社だけどさ、わかるかな? そこに来てほしいのよ」
「大丈夫です。23時、伺います。1つですか?」
「うん、1つだけ、よろしく」
五十嵐さんとは、もう随分、長い付き合い。年に3、4回ほど、仕事をくれる。彼の他には、現在は、あと2人、ゴミ埋め作業のクライアントがいる。けれど彼らは、年に1、2度利用してくれるかどうかだ。
私のクライアントでは、五十嵐さんが一番のお得意様だ。彼はやり手だ。闇の世界で30年、生き残ってきたのだから。
22時30分に、群馬、伊勢崎にある運送会社に辿り着くと、外灯がひとつだけ光り、あとは真っ暗闇の駐車スペースに、すでにベンツが停まっていた。
外灯の真下に私は清掃の仕事に使用しているハイエースを駐車する。
ベンツの運転席から体躯のやたらいい男が飛び出して、後方のドアを開けた。
このでかい男には初めて会う。いつも五十嵐さんは一人で来るのだ。誰かを連れて来たのは5年ぐらい前までさかのぼるだろうか。あの時、紹介された男は1年ほどで姿を見せなくなった。理由は知らない。
後部座席から降りてきたのは、黒のスーツにネクタイ姿、痩せ型で、一見、やさぐれたサラリーマン風の中年男性が五十嵐さんだ。50歳ぐらいか。年齢とか特に聞いた覚えがないので定かでないが、3カ月前の夏の日、朝日が昇る海岸沿いでお会いした時には、側頭部に白髪が目立ち始めていた。彼がベンツの前で佇んでいると、車の主人ではなく、お抱え運転手のように見えなくもない。
五十嵐さんはいつも軽い口調で、やや高めの声を発した。言葉を交わせば、些細なことでもクスクスと笑い、表情をほころばせる。
けれども、この仕事で、私はいろいろな人間を見てきた。様々なヤバい人間を見てきたからわかるようになったと思う。彼のちょっとふざけた静かなたたずまいの中に、不気味さ、怖さを感じる。
五十嵐さんの細い眼に凝視されると、カマキリの前で硬直しまう虫のように、微動だにできない。
清掃用具を満載したハイエースをベンツの横に着けた私は、運転席から急いで降りて、五十嵐さんの元に駆け寄った。
「中村さーん、こんばんはー。悪いね、遠くまで」
五十嵐さんは、いつもちょっと高いトーンで軽い口調だ。
「ご無沙汰しています。随分寒くなりました。あの、隣の方は?」
五十嵐さんの横、3歩ほど下がって、190センチはあるのか、体躯のがっちりした、強面のいかにもという男が、直立して紹介されるのを待って居た。
「そうそう、彼ね。うちのホープだから紹介しておきたくてさ。松田君ね、松田君」
大男の肩を五十嵐さんがポンポンと叩いた。
短髪で、眉間には作られた皺があり、顔つきを「いかにも」という感じにしている。
「松田君は、ずっと表舞台の方で、頑張ってくれてたの。でね、そろそろ、こっちも知っとかないといけないってことでね。よろしくお願いしますよ」
「松田です。お願いします」
松田さんは20代後半ぐらいか。立身出世、夢希望と言うか、野心がありますというギラギラ感を醸し出している。上昇志向が溢れている。
こういった松田さんが醸し出すヤル気にあふれた雰囲気は、私にはない。
この仕事に手を出し始めた頃、今の松田さんの年齢の頃にもなかった。私はそういう雰囲気を作り上げて、他人に示すのが苦手な人間なのだ。
「やる気があるのか」と学生時代に属していた部活で顧問の先生によく言われたし、就職してからも、「やる気がないなら辞めちまえ」と上司に言われたことがある。
タイプがあまりに異なると若い頃は付き合うのが難しいと感じて敬遠するものだけれど、この年齢になれば、仕事だけの関係だから、お互いに利があれば、どうとでもなる。タイプが違っても受け入れられる。
「中村と申します。五十嵐さんには大変、お世話になっております。よろしくお願いします」
私は普段の仕事で使用している名刺を差し出して、頭を下げた。松田さんは私の名刺を受け取りポケットにしまう。
「松田くーん、じゃあ、コレ積み替えといてくれる?」
「はいっ」
五十嵐さんの指示にハキハキと返事をして、松田くんはベンツのトランクを開けるとスーツケースを取り出した。
「中村さんはコレ、確認してくれるー?」
私はハイエースの後扉を開けると、松田さんと一緒に積み込みを行おうとしたのだが、五十嵐さんに手招きされて、封筒を差し出された。
「ありがとうございます」
茶封筒の中身は現金だ。これを数える。乾燥していてうまく捲れないので、親指と人差し指を舌にあてた。
「はい、50枚確かに」
「うん」
横では松田さんが、大きなスーツケースを、私のハイエースへ積み込んでいた。普段の仕事で利用している清掃用具の隙間に強引に押し込んでいる。なんとか積み終えると力任せに後扉をバタンッと閉めた。
「松田くーん、静かにやろうよ」
五十嵐さんが甲高い声を出して、注意をする。
「はいっ」
松田さんはベンツへ向かうと、トランクを丁寧、慎重におろした。音がなかった。
五十嵐さんが持ち寄るゴミを、自分の車に移し替えて、お金をもらう。これだけ。いつもなら5分で終えて、少しだけ立ち話をして、終わりだ。
煙草を吸いながら、私が現金を数え終わるのを見ていた五十嵐さんに尋ねた。
「これからは彼から連絡がありますか?」
五十嵐さんは首をちょっとひねってみせた。
「んー? いや、連絡は全部、俺からだね。運びだけ任せることがあるかな。俺もね、最近、なにかと忙しいのよ」
「仕事はできる人の所に集まりますからね」
「そうなー。俺も中間管理職? 課長? 部長? そんな感じだからさ。うん、松田くんのこと、これから頼むよ」
これが松田さんを初めて紹介された日のこと。
11月の夜、伊勢崎、風が冷たい。
★
2月は今日で終わり。
暦の心理的効果はでかい。3月と聞くだけで春のピンクのイメージで暖かみがます。2月は本日限り。たった一日の違いなのに2月28日は、まだ冬で灰色で重い。
日中に、今年初めての電話が五十嵐さんからあった。
埼玉の鶴ヶ島にある工場跡地まで、夜10時に来てほしいとのこと。
五十嵐さんは所用があるので、去年、紹介された松田さんからゴミを受けとるようにとの指示だ。
鶴ヶ島のインターを降りて、しばらく走り、21時40分、工場跡地へと入った。
すでに駐車場には黒のベンツがある。街灯のない跡地ではあったが、近隣の工場団地からの光が漏れているので、暗闇というほどではない。
ハイエースをベンツの横に着け、運転席から降りる。ベンツの運転席にいる松田さんに軽く頭を下げて挨拶をした。
ベンツのドアがゆっくりと開いて、190センチ近くある大きな体躯の松田さんが姿をみせた。
「お久しぶりです」
私の挨拶に「うん」と頷き返して、トランクを指さす。
お会いするのは2度目だが、五十嵐さんがいないからか、前回とは彼の醸し出す雰囲気が異なるように感じた。イケイケ風な感じが、いまひとつ伝わってこない。疲れているのか、機嫌が悪いのか。それとも、前回、自分がもった印象が間違っていただけなのか。
そんな思いを抱きながら、ベンツのトランクを開けた。グレーの寝袋(シュラフ)にビニールテープがグルグルと巻かれている。
梱包は寝袋(シェラフ)より、スーツケースの方がいい。寝袋はヒト型そのままの荷姿であることに加えて、運ぶ際にリアルに身体が感じられるから、感触がしばらくの間、自分の手から消えないのだ。
寝袋の上半分に私が手をかけ、下半分を松田さんが抱えた。
50~60キロぐらいか、体格のよい松田さんが下半分を持ってくれたおかげで、よくわからないが、大きさもさほどではないから老人か、女か。
小さければ小さいほど、軽ければ、軽いほど、この後の作業が楽だ。重量ではなく、一体いくらの勘定だから、基本、成人男性より身体の小さな女性、子供、老人の方がいい。
姿、形を見るわけではない。私はこのまま、ただ地中深くに埋めるだけだから。
荷物を移し終えて、ハイエースの扉を閉じた。
松田さんが、ポケットから封筒を取り出すと、中をのぞいてから私に手渡した。
私が万札を数え始めると、松田さんは横に立って煙草に火をつける。
「埋めるだけで、それだけもらえるなら、いい商売だな」
札を数えている時に、声をかけてほしくはなかったが、無視するわけにもいかない。
「いやぁ、まぁ。でも、それなりにいろいろ大変です」
自分の仕事が簡単そうに見えるというならば仕方がない。
お金を受け取った後のことは、全部、私自身が責任を持つことになっている。しかし、他人の仕事の苦労などわかるはずはない。自分がやってみなければわからない。彼は顧客であり、お金をくれる相手に対して、強く反論する気にはなれなかった。
「はい、確かに」
封筒をポケットに収めると、早々に退散しようとした。長居しても、面白いことは何もなさそうだったから。
「あんたさぁ、どれだけ埋めてきたの?」
「はぁ・・」
こういう質問は嫌いだ。あまり聞いてほしくない。だいたい、その数はいくつだったら良いというのだ。
「さぁ? 数えてないから」
首を傾げてみせた。嘘をついたわけではない。本当に知らない。覚えていない。多くの人が、どんなことにおいても、似たような経験を10回以上もおこなったら、だんだんと記憶が定かではなくなるのと同じ。どんなことにでも慣れるものだ。
「俺と一緒に入った奴でさぁ、秋山って奴。去年いきなり消えちまった、あんたが埋めちまったかね?」
「・・・どうでしょう。私には、わからないなぁ」
「中身に興味ねぇの?」
「ありません、興味がある方が変です。ゴミですよ」
「ゴミの中から金が出たってニュースがあるだろ。表に出ないだけで、相当あるんじゃねーの」
「・・私が扱うのは基本生ゴミだし」
松田さんは、どうでもいい話を続けたいようだが、私は早くこの場を立ち去りたかった。彼の仕事はコレで終わりでも、私の仕事はここから始まるのだ。まだまだ忙しい。
「さっき話したさぁ、行方不明の秋山の女がさぁ、この前・・」
「松田さん、すいません。戻って、早く処理してしまいたいので。これからが大変なんで、これにて失礼します」
「・・・・・。」
「無事、終了しましたら五十嵐さんに連絡いれますので」
一礼して、ハイエースの運的席のドアをあけようと手をかけた。
「おいっ」
松田さんも、ベンツのドアに手をかけていた。
「はい、何でしょう?」
私を呼び止めた松田さんは、ゴニョゴニョと聞き取りにくい小声を発した。
「薬がな、致死量まで・・どうかな」
「は?」
「いや、放っとけば無理なはずだから」
「は? 何です?」
「いや、もうたぶん、死ぬ」
「は?」
何を言いたいのかわからなかったが、松田さんは、運転席に座り込みエンジンをかけた。
「あの、どうなってるんです? ちょっと! いいんですか?」
松田さんの運転するベンツは駐車場を出ていく。
私は、松田さんの言葉の意味がすぐには理解できなかった。
(まだ生きてるってこと?)
だとしたら、ルール違反だ。私の仕事は動かないモノを、埋めるだけであって、生きてるモノは扱わない。
それとも、ふざけているのか。冗談か。中身を開けさせるためのブラックジョークか何かなのか。意味が分からない。
ハイエースの後扉を開けて、清掃用具の隙間に入れた寝袋を見る。
開けた方がいいのか? 何の嫌がらせだ、これ?
そんな思いで見つめている時、確かに寝袋が揺れた。
微かに動いた。動いてはいけない荷が動く。
「くそっ、あのバカ」
私は五十嵐さんに即座に電話をいれる。この行動に何の迷いも生じなかった。もう反射的に行っていた。
★
あれから4時間、車中で待たされている。
真夜中、すでに日が変わっていた。3月だ。頭がピンクになって、気分が高揚するはずの3月なのに、イレギュラーな事態がいろいろで頭を混乱させた。
どうして松田さんは生きているモノを私によこしたのだろう?
① 自分で手を汚すのが嫌だから。
② 私に全部やってほしかったから
③ それとも、助けようとした?
(助けようとした)なんてありえるのだろうか? 助かりでもしたら、彼も私も終わりではないか。やっぱり、助けようはないのでは。
いや、しかし、ありえないのは私の方で、縛られた袋がモゾモゾしているのを見つけたならば、普通の人なら警察にでも連絡を入れる。
とはいっても、私はお金をもらっているし、全く普通の人の立場ではないし、そもそも五十嵐さんに即座に連絡を入れてしまったわけだし。
これは、あれか? 松田さん自身がどうしたらいいかわからなくて、全てを私に丸投げしたということか。
何も考えずに五十嵐さんに連絡を入れたことは、仕事上のパートナーとして、私は信頼関係をまた一つ築いたのだろうけど、人間としてはいかがなものか。
どんどん、遠ざかっている気はする。
悪魔に魂を売ってから、10数年。そりゃあ、慣れるか。
松田さんはまだまだガキだということか。覚悟が足りないってことか。
そんなことをグルグルグルグル、私はずっと車内で考えていた。
3月1日、午前2時、黒のベンツが再び、駐車場へ入ってくる。
運転席から降りた松田さんは、先ほどとは顔が変わっていた。
左の頬から目までが青くはれあがっていた。そして右耳に包帯が巻かれている。
助手席からは五十嵐さんが降りてきた。
「中村さん、悪いねー。遅くなった」
「はい、お久しぶりです。電話で話した通りです」
「うん」
「あの、自分の仕事は埋めるだけですから」
「わかってますよー」
私はハイエースの扉を開けて、動く寝袋を五十嵐さんにさし示した。
そして五十嵐んさんの後ろで、直立不動の体勢をとる松田さんに声をかける。
「松田さん、どうなってるんです?」
「・・・」
「私が引き受けるのは動かないモノだけですよ」
「・・・」
「松田さん、もしかして、私が助けると思ってます?」
「・・・」
言葉を続けようとする私を、五十嵐さんが手を挙げて遮った。
「ねぇ、まだ動くの?」
五十嵐さんは首を傾げながら、私に尋ねた。先ほどまでは、確かにモゾモゾ動いていたような気がしたが、こと切れたのだろうか。
「・・・・たぶん」
私の手が寝袋に触れる。その時、もぞもぞと芋虫のように全身が左右に揺れた。
ウゥグゥと袋の中からかすれた、うめき声が漏れる。
「松田くん、見てみて、コレ、動いてる」
「・・・はい」
五十嵐さんは寝袋に両手をかけると、一気に車体から引きずり下ろした。
ドッっと地に叩きつけられると、その瞬間、動きが止まったかのように思えたが、ちょっとの間をおき、再びモゾモゾと動く。
寝袋が微かに動くや否や、五十嵐さんは寝袋の頭部付近を思い切り蹴り上げた。
(ここでやるのか)私が思ったのはそれだけだった。
その行為に驚きはなかった。こうなることを分かったうえで、私は五十嵐さんに、連絡を入れたのだから。
寝袋を蹴り続ける五十嵐さんではなく、それを凝視している松田さんを私は見ていた。
この行為は松田さんに見させるために、五十嵐さんが半ば演じているのだろう。
ガッガッガッと何度も何度も蹴りつける。
右足が力尽きたら、左足で蹴り上げだ。
私と松田さんは、ただ直立して、それを見ている。
5分も続いただろうか。五十嵐さんの額に汗がにじんで、吐く息が乱れた。
「ハァ、フゥ、悪かったなぁ。これで安心、大丈夫、ハァ、フゥ」
五十嵐さんはニヤリとひきつった笑顔を私に向けて同意を求めた。
一人の命が私の目の前で消えたわけだが、これは想定内の出来事であったから、特に心は乱れなかった。
もう動かない寝袋を見つめた。
袋の一部は破れかかって、中から液体が漏れていた。
「松田くんさぁ、言われたことはちゃんとやろうよ」
用意周到に新しい寝袋が広げられ、松田さんが破れかけた袋ごと、大きな袋に移し替えていく。
「・・・はい」
「適当なことやってると、お前がこうなるよ。ねぇ、中村さん?」
「・・・ええ、仕事はちゃんとやらないと」
松田さんがどうして、中途半端な形で私に渡したのか、尋ねてみたかった。今、腫れあがった顔で彼がここにいることを考えれば、彼自身も、うまく言葉にはできないのだと思うけれど。
「松田くんさぁ、ゴミが出ないようにするのも、俺らの腕の見せ所なわけだから、わかる?」
「・・・はい」
積み込みを終えた松田さんの横で、五十嵐さんが諭している。これも新人教育なのかな。
いろんなことを麻痺させていくことが大切。
「松田くんさぁ、中村さんとは仲良くやってよね、俺もお前もさぁ、いつか、この人の山に埋めてもらうかもしれないだろ。見晴らしの良いとこに埋めてくれるって」
「また、そういう・・」
軽い口調のいつもの五十嵐さんに戻っている。こうやって、強弱をつけるというか、怖さと柔らかさを使い分けるのは、どこの管理職も一緒だなと思う。
そして、私にも一言、注意が入った。
「中村さんもさぁ、うちのに対して言葉使い間違えたら駄目だよ、気を付けなさいよ」
そうか、私が直接、松田さんに言ってはならない。何かあれば、全て五十嵐さんに話して、そこからだ。
「・・・・失礼しました」
これが、2月最後の夜の出来事。
普段より、ずっと長い夜。
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