CODE1 消失

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 マスターは踵を返すと、再び歩き始める。  この男には疲労という概念も無いのだろうか。  正体不明にして魔法結社「マギ・メディエイション」の代表、「魔法」を斡旋する謎だらけの男。  このマスターが居たからこそ今の大和が「魔法使い」として存在しており、間接的にではあるが大和を無職から救った人物でもある。  一時、お金の工面をしてくれたことに恩義も感じたが、実は単なる時間を超越した前借りというだけだったと知り、これについては大和の中でチャラになっている。  大和は水筒をアイリに手渡すと、マスターの背中を追って再び歩き出した。  アイリもこちらの姿を日光から遮るように、日傘を維持して追従してくれる。  ……そもそも何でこんなことになったんだっけ?  この疑問も随分前に考えていたような覚えがあるが、遠い日の記憶のようにはっきりとは思い出せない。  その時だ。  ――! 「ん? 今何か聞こえたような……」  小さな音だが、空気が破裂するような、または布団でも叩いたような音を耳が拾った気がしたのだが、ついに幻聴まで聴こえるようになってしまったかと、大和はゲンナリした表情で虚ろな目を右に。  熱した鉄板の如く陽炎が揺らぐ砂海の向こう。白い影と黒い影がポツリと見えた。 「なんだ……あれ?」  これに反応したのは前を行くマスターである。 「どうやらやり合ってるようだね」 「やり合うって……何を?」  大和がマスターに問うと、彼の横顔はこれまで見たことも無いような、不気味な笑みを浮かべている事に気付き、思わず言葉を失う。 「奪い合いだよ。食料、燃料、資材、そして……命のね」  低く響くマスターの言葉に、言い知れぬ恐怖を抱いた大和は、もう一度砂海の向こうに見えた影に視線を戻す。  白と黒の影は先ほどよりも大きくなっており、こちらに接近してきている事がわかる。  白い影は帆を張った船だ。木造ではなく、外装は金属で固められている。  一方の黒い影は奇妙な形をしていた。武骨な形状ではあったが、 「人型……?」  見ようによってはそう見えるだけだ。なぜならその人型の下半身は、白い船と同じ船のような形状をしていた。  肩に背負うように配された、細いパイプから黒煙を吐き出し、2本の図太い腕が白い船に伸びようとしている。  一方の白い船からは、大砲のような砲身から発射を示す黒煙を噴いて砲弾が飛び、黒い人型船に命中する。  衝撃で一瞬、黒い人型船がバランスを崩しそうになるが、片腕を砂海に付いて転倒を回避。  再び腕を伸ばす黒い人型船。  白い船から連続して銃器の発射音が響き、伸びてくる腕に銃弾がぶつかって小さな火花を散らすが、腕の動きは止まることなく白い船に届く。  縁を掴んだ鋼鉄の腕が、外装を引き剥がすように大砲の砲身を潰し、紙のように千切られた外装が放られて砂海に投げ出された。  更に黒い人型船は腕を振り上げ、白い船の巨大な帆を殴りつけて破壊。  一気に白い船の推進力は失われ、直進から一転、左側に舵を切ったように曲がって行く。 「ああっ! やられた!」  事ここに至り、大和は冷静さを取り戻してマスターに声をかけた。 「ってぇ、見てていいのかよ! 助けなくちゃ!」 「を助けるつもりかね」 「は?」  マスターから返ってきた言葉に、大和は耳を疑った。  状況はどう見ても助ける側を明らかにしている。白い船は襲われ、黒い人型船は奪おうとしているのだ。 「白い船を助けるに決まってるだろ!」 「なぜそう思う透・大和。それは色による違いか? それとも損傷を負って劣勢と判断したからか?」
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