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青々とした木々の扉がメレの前で開かれていく。
ぐんぐんと広がる本物の青。
壮大な空は雲一つない。
メレは自分の設計した二人乗り飛行機の前方の座席に座って、空の青さを実感する。
高い空から急降下して、森の木々の間を通り、地面すれすれで飛行機が飛び始めた時には設計ミスかと肝を冷やしたが、パイロットが遊んでいるのだと気が付いて苦笑した。
こういう運転ができる飛行機にしたかったから文句は言うまい。
メレは後部座席の操縦桿に繋がれた伝達管を手に取った。
「御気分はいかがですか」
パイロットにそう問うと、彼は「最高だ」と答えた。
メレは満足そうに微笑み、彼の運転に任せて空を楽しむ。
目的地はもうすぐだ。
カルロ湖の丘、メロン村で開かれるエバ・ローリン杯に間に合うように首都を出立した。早ければ一時間で到着するはずが、パイロットの気まぐれであちこち空の寄り道をする羽目になったから少し予定よりも遅れている。
開会式に間に合うといいけど。
メレは兄の顔を思い出した。
大会連覇者で専門的知識がある者の大会への出場が禁止されることになって、オロンの落胆ぶりは相当だった。飛行機馬鹿たちは有志を募り、専門家用の飛行機部門を作って何年か経っているが、未だに白熱した戦いぶりだという。空への人間の飽くなき欲望は留まることを知らないらしい。
そういう自分も、飛行機馬鹿の一人になってしまったが。
メレは懐かしい景色が見えてきたことに胸が高鳴る。
見慣れた丘から一台の真っ白な飛行機が飛び立つのが見えた。優雅な線を描いて、それは湖に飛び込んで、会場が湧いている。湖に浮かべられた救助艇がすぐに落ちた飛行機のパイロットを救い出す。
「メレ、旋回して煙幕を出すぞ」
後部座席のパイロットが嬉しそうに言った。
「煙幕、出すんですか」
メレの苦笑にパイロットは何色にしようかな、とウキウキとボタンをいじくっている。
旋回に備えて、メレは体を座席にきつく固定した。旋回という名の宙返りにはもう慣れた。
「ガーレン様、ほどほどにしないと飛行機にはもう乗せませんよ」
「は、お前に指示されるほど落ちぶれちゃいないぞ」
このロベッカ国の正当なる王は楽しそうに答えた。
地上では、突然現れた王家の紋章入りの飛行機が宙返りと墜落に見せかけた見事な飛行テクニックを見せたのち、煙幕を出して消えたことに大きな歓声が上がった。
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