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一週間ほどたったころだろうか、待合室につくと既にその場にいた主婦が青い顔で中年の男に詰め寄った。
「あの…あなたは平気なんですか?」
「何がです?」
明らかにめんどくさそうな顔で男は返事をしたが彼女は気にしなかった。
「私は毎日掃除するたびに本当にいいんだろうかって指が震えて…昨日なんて涙が止まらなくて…」
「案内の方に行って薬を処方してもらったらいかがです?」
「私がおかしいっていうんですか!?」
女が金切り声を上げて男はうんざりしながらも答えた。
「あなたね、例えあなたが掃除が嫌だといって何になるんです?どうしてもゴミは増えていくんです。それで公務員だけでは手が足りないっていうから私たちみたいな一般人も駆り出されているんじゃあないですか。それを、嫌だでやらないで済むと思いますか?」
「それは…」
口ごもった女に続けて男は離し続けた。
「どうしようもないじゃありませんか。そもそもゴミを0にすることは不可能ならば誰かが掃除をしなくてはいけないんです。あなたは自分が嫌だからって人に押し付けるんですか?」
「…………」
女は沈黙した。
「考えても仕方ないことを考えるべきではないですよ」
そう結論づけると男は待合室に用意されている新聞を読み始めた。
「でも…おかしい…こんなの…絶対に……私は…」
女はぶつぶつ言いながら椅子に座る。徐々に他の掃除係も待合室に集まり思い思いに過ごし始めた。
「皆さん、掃除の準備ができましたので、お入りください」
案内人が声をかけると皆ぞろぞろついていく。
女は椅子に座ったまま動かない。
「どうしました?ついてきてください」
「……………」
「もし業務を拒否するのであれば、国務執行妨害として拘束を受けますがよろしいですか?」
主婦は慌てて立ち上がり案内人の傍まで駆け寄った。その様子をみて男はやれやれと肩をすくめた。
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