9人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あなた。それは……」
「これですか。これは魔法の手袋でして、これで触れたものは、どんなものも触れる事が出来るんです」
そうして、リュークは手の中にあったモノを女性に差し出す。
「これは、ホウキかしら?」
「ホウキです。マダム」
木製の長い柄、反対側には木の束がついた棒。リュークが描いたのはホウキの絵であった。
「ぼくも手伝います。一緒に掃除をしましょう。彼が来られるように」
「掃除をしたら、あの人は来てくれるかしら……?」
「来てくれます。自信を持って下さい」
しばし、女性は受け取っていいのか迷う素振りを見せるが、やがて手を伸ばしてホウキを受け取ったのだった。
「わかりました。掃除をします」
「そうこなくちゃ!」
二人はベンチ周りから落ち葉を掻き分けると、道を作っていく。
不思議と、落ち葉はホウキで道の脇に追いやると、すうっと霞の様に消えていった。
女性は「不思議なホウキね」と驚いていたが、リュークは「そうですね」と肯定しただけに留まる。
ホウキで道をはき続けて、やがてベンチ周りを整える。
絵の中なので、時間は変わらず昼間だが、絵の外は真夜中だろう。
これでは、またベルに「お金にならないのに夜更かしして」と怒られてしまう。
苦笑をしながらリュークが落ち葉を掃除していると、女性は「疲れたわ」とハンカチで汗を拭く。
「これで本当に来てくれるのかしら」
「来ましたよ。ほら」
リュークが示した先には、息を切らした若い男性の姿があったのだった。
「あの人は……」
疲れたのが嘘のように女性は男性に駆け寄る。
「もう! ずっと、待っていたのよ……!」
「ごめん。落ち葉で列車が止まって……」
「嘘ばかり。列車は動いていたわ……!」
「彼は嘘をついていませんよ」
言い争う二人の間に、リュークは割って入る。
「彼が言う列車って、あれの事ですよね?」
リュークが指差す先には、遠くで煙を上げて道路を走る列車があった。
「あれって、路面電車?」
「そうだよ。乗る予定だった路面電車の線路に落ち葉が溜まって、電車が止まってしまったんだ。それで歩いて来たんだけど……」
悪びれるように頭を掻く男性に「それにしても遅いわよ!」と女性は反論する。
「徒歩で来たにしても遅いわよ。私はどれだけ貴方を待っていたと……」
「ごめんごめん。これも買っていたら遅くなって」
男性が懐から出した紺色の小箱。
中を開けると、金色に光る指輪が入っていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!