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「これは……」
「ずっと待たせてごめん。これが僕の気持ち。……これからも一緒に居てくれる?」
女性は震える手で、男性の手ごと箱を受け取る。
「ずっと待っていたんですよ……。貴方とずっと一緒に居たくて」
「先にいってごめん。ごめんね……」
いつの間にか、二人は老いた姿に変わっていた。
男性は皺が寄った手で指輪を取り出すと、同じく皺が寄った女性の指に金色の指輪をはめる。
今まで離れていた時間を埋めるように、二人はたわいのない話をしながら公園の出口へと向かって歩いて行く。
リュークの視線の先で、老夫婦は手を繋いだまま歩いていき、やがて霞の様に消えたのだった。
「これで一件落着かな」
あとはまた同じ事が起こらないように、リュークが手を加えるだけだった。
「何がいいかな……。そうだ!」
誰もいないベンチには、リュークが生み出したホウキが残されていた。
そのホウキをベンチに立てかけたまま、リュークはチョークを取り出す。
そうして、ベンチにまた絵を描き始めたのだった……。
次の日の朝早く、絵の様子を見に来たミキは、出迎えてくれたリュークによって家の中に案内される。
「あれ、ベルは?」
「まだ寝ているんじゃないかな?」
徹夜で絵を描き変えていたリュークは、回らない頭でミキの疑問に答えてくれる。
「ふ〜ん」
廊下を歩いていると、昨日、ミキを出迎えてくれたベルによく似た女の子の絵が飾られていた。
「こんな絵、昨日、あったかな?」
背景が灰色の絵の中では、ベルによく似た女の子が仏頂面で描かれていた。
自画像にしては不機嫌そうで、誰かに描いてもらったにしては、もう少し愛想良く描いてもらえなかったのだろうか。
「昨日からあったよ」
「そうなんだ……」
端的に答えたリュークの言葉に自分を納得させると、昨日の部屋に入っていく。
「描き変えてみた。これでもう大丈夫だと思う」
「なんか、色々と増えてない……?」
絵の中から落ち葉はすっかり無くなった。
けれどもその代わりに、ベンチに座る若い女性の隣には若い男性が座り、ベンチの脇には薄茶色のホウキと赤銅色のちりとりが増えていたのだった。
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