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「これからも落ち葉が増えたら、二人で掃除をしてもらおうと思って、ホウキとちりとりを描き足してみた」
「この男の人は?」
「そりゃあ、君のおじいさんだよ。若い頃のおばあさんの隣には、同じく若い頃のおじいさんを描かなきゃね」
リュークに言われてよくよく見ると、確かにこの若い男性は写真でしか見た事がない、じいちゃんの若い頃の姿によく似ていた。
心なしか、じいちゃんだけじゃなく、ばあちゃんも嬉しそうに笑っているような……。
「言われてみれば、じいちゃんとばあちゃんに似ているような……」
「そうだろう。それじゃあ、ぼくの仕事はお終い。徹夜で描いたから眠くてね。そろそろ寝ようかな」
欠伸をしながら、ミキに絵を返すと玄関まで見送る。
その途中、先程の廊下に飾られた絵の前でベルと会う。
「あ、あの……」
ミキが話す前にベルは興味を失ったように、目を逸らすと廊下の奥に消えて行く。
廊下にはベルの絵がなくなり、代わりに背景が灰色の絵だけが飾られていたのだった。
「ありがとうございました。代金は必ず支払います」
「うんうん。よろしくね〜」
欠伸をしながら片手を振るリュークに見送られながら、ふとミキは気付いて立ち止まる。
「あれ? 若い頃のじいちゃんの話なんて、したっけ?」
後ろを振り返るが、既にリュークはあばら屋の中に戻ってしまったようで、そこには誰もいなかった。
「ま、いいか」
ミキは絵を抱え直すと、再び歩き出したのだった。
「リューク」
ミキを見送ったリュークが家に戻ると、そこには睨みつけるようにベルがいた。
「なんだい。おちびさん」
「あの絵は、どうして落ち葉が降っていたの?」
「あれ? 興味ない振りして、ぼくたちの話を聞いていたんだ」
リュークが茶化すと、仏頂面のまま、「いいから」と返される。
「はいはい……あの絵にはミキ君のおばあさんの未練が残されていたんだ」
「未練?」
「おじいさんに先立たれたという悲しみ、もっと同じ時を過ごしたかったという心残り。おじいさんが亡くなって、その未練だけが絵に残されてしまったんだ」
大切にされていたモノには、持ち主の想いが宿る事がある。
あの絵は、生前おばあさんに大切にされていた。
おばあさんが亡くなった事で、絵に残されたおじいさんへの未練だけが一人歩きを始めてしまった。
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