変わった依頼

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変わった依頼

ここはとある芸術の街。 数多くの芸術家を輩出してきたそんな街の片隅。 一人の若い少年があばら屋の前に立っていた。 「ここが有名な先生の自宅なんだよな……」 声変わり前の高めの声。女子と見間違うような童顔。 生唾を飲み込むと、少年はあばら屋の扉を叩いたのだった。 「はい」 抑揚のない声が内側から聞こえてくる。 扉を開けてくれたのは、自分とあまり歳の変わらない濡羽色の髪の少女だった。 「押し売りはお断りですが」 低く、冷たささえ感じる声音に、淡々とした話し方。 どうやら、抑揚のない声の主は、この少女だったらしい。 無愛想な顔をして、溜め息と共に扉を閉めようとする少女を、「ちょっと待って!」と慌てて扉を押さえて阻止する。 「ここに、どんな絵も描き変えられるって噂の有名な画家が住んでいるって聞いたんだけど」 「その噂通りかもしれませんし、有名な画家先生かもしれませんが、それが何が?」 「どうしても、描き変えて欲しい絵があるんだ! ばあちゃんの形見の絵で、ばあちゃんが死んでから絵がおかしいんだ!」 「おかしい?」 すると、少女の後ろから、若い男性の声が聞こえてくる。 「おかしいって、どうおかしいんだい?」 相手が誰かも確認しないまま、少年は勢いのまま話し続ける。 「秋の公園の絵なんだけど、ばあちゃんが死んでから、来る日も来る日も絵の中に落ち葉が降り続けて、今にも絵から溢れそうなくらいに落ち葉が増えているんだ! 絵の中の女性も、だんだん不機嫌そうな顔になってるし……」 「そうかそうか。そんな絵がまだ残ってたんだね……」 無愛想な少女が後ろを振り向く。 いつの間にか、少女の後ろには麗しい容姿の若い男性が立っていたのだった。 「リューク」 「なんだい? おちびさん」 リュークと呼ばれていた若い男性は、長く伸ばしたミモザ色の髪をうなじで結んだ美丈夫だった。 街中に建つ作者不明の彫刻もかくやという美麗な顔立ちに、少年も興奮を忘れて魅入ってしまったのだった。 そんな少年に気づく事なく、二人は話しを続けていた。 「わたしにはベルって名前があるんだけど」 「うん。でも、ぼくより小さいから、君はおちびさん。間違っていないだろう?」 「間違ってはいないけど……。納得いかない」 「まあまあ。で、そこの君」 急に呼ばれて、少年は驚く。 「立ち話もなんだから、中へどうぞ。その話、詳しく聞かせてよ」 「あ、うん」 仏頂面の少女、ベルの脇を通り抜け、廊下に飾られた灰色の絵の前を通る。 何も描かれていない、ただ灰色に塗られただけの絵を不思議だと思いながらも、少年はリュークに続いたのだった。
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