さなえ

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 唐揚げとさきいかを買った。日付も変わろうかという時間帯に揚げ物を買うのは背徳感がある。でもそれがまた、旨さを引き立てるってものだ。部屋着のまま出掛けた下半身から寒さが上ってくるまでに、玄関を開ける。そこで、ふと違和感に気づく。    ――音楽が鳴っている。それも、俺の全く趣味じゃない軽いポップスが。キラキラした音色に、甲高い女声の歌唱が乗せられている。おまけに芳香剤なんか置いていないのに、花の香りがする。カモミールみたいな。  でも感じるのは、ひたすら嫌悪感のみだ。まるで姿の見えない同居人が、いつの間にか部屋に居付いているみたいだ。 「誰かいるのかっ!?」  俺の声が廊下と一体化したキッチンスペースに空しく響く。開きっぱなしのドアの向こう側に覗く居間に置いてあるラップトップPCの中で、ポップス歌手が―― ずっと一緒だよDarling 私との時間(とき)に閉じ込めて  なんて歌っている。  やめろ。やめろ。頭がおかしくなりそうだ。 「いったい、どうなってるんだよ」  動画サイトの画面を閉じる。静寂が戻って、ようやくこの場所が自分の部屋だという自覚を取り戻す。  もうすっかり、酔いが覚めてしまっていた。けれど、それがたまらなく居心地が悪い。今にも、あのポップソングが鮮明に聞こえてきたらと思うと。平静なんか保って居られなくて、普段はベースにしているウイスキーをストレートで流し込んだ。
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