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さなえ
掃除は、こまめにしている方だと、自分でも思う。けれど、冷蔵庫の冷蔵室の中にこびりついた汚れを拭いたり、冷凍室の霜取りをしたりは、年末の大掃除でもない限りやることはない。この日のために、計画的に冷凍庫の中の食材を消費しておいた。残っているのは、溶けたところで大して傷まない食パンと、保冷剤くらいだ。
冷凍室を開けると、内側にびっしりと霜がついている。安いからといって、リサイクルショップで購入したことを後悔するくらいの量だ。氷の厚さは優に数センチはあり、がっっちがちに固まっている。アイスピックなど、持ち合わせていないので、ベッドの組み立てに使用したプラスドライバーを突き刺してほじくって剥がす。氷の塊を数個剥がし終えたところで、ごろりとアルミ袋に包まれた棒アイスが出てきた。昔ながらのバニラ味のものだが、自分が滅多に買わない系統のアイスだったので首を傾げる。
けれど、輪をかけて不可解だったのは、アルミ袋にマジックペンで書かれた「さなえ」という丸文字だった。
恥ずかしながら、白状する。俺は独り暮らしだ。そして、大学進学を機に住み始めたこの部屋に、女性はおろか友達を上げたこともない。加えて、俺の知り合いや家族に、「さなえ」という名前の女性はいない。つまり、この棒アイスは、”あるはずがないもの”なのだ。
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