赤いネクタイの中に

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赤いネクタイの中に

 今日は特別な日だ。  怜は由緒正しい‪α‬家、皇の一家に生まれた。当然‪α‬だと思い生きてきた。性別検査でも結果は‪α‬だった……が──ある日仕事の帰りに発情期の症状を引き起こしてしまった。直ぐに制御剤を服用したが街の袋小路へ身を潜めた。その時に出会ったのか幼なじみだった。「逃げ込む姿を見た」と、後をついてきたのだ。  どの道、‪この仕事をしてると言うだけでも距離を置かれている、更にα‬家の人間が実はΩ性だったと知れば見捨てられる。なら、『番』というのもひとつの道だと思い、提案をした。  お互いが赤いネクタイを締めていた。  ネクタイを締める彼は幼なじみの美禅正海。ホテル経営をする美禅グループの御曹司だ。ひとつ周りと違って輝いてるとしたら──恋人を愛してやまないという溢れんばかりの愛情を持っているところだ。  正海と怜は赤いネクタイが引き寄せた『運命の番』この契約を結んでから、はや一年が経つ。 一緒に住む家は2LDKのマンション。朝ごはんの準備に切磋琢磨していると、リビングには両面を焼きほんのり甘い香りのトーストと、香ばしいコーヒーの香り漂い、眠気を飛ばし食欲を誘うよう。 「正海、朝ごはんできたよ」 「ああ、美味しそうな匂いがする」 「トーストと目玉焼き、あとコーヒー」 「目玉焼きはもちろん……」 「半熟だよ。デザートもある」 「桃、がいい」 「そう言うと思った、好きだもんな」 いつもの掛け合い、阿吽の呼吸。幼なじみだから好みも知っている。  向き合って朝食を食べる、この何気ない日常がとても好きになった。この日常が当たり前ではないと分かっているからだ。 正海が椅子へ座ると、真向かいに怜が腰を下ろす。そして両手を合わせ「いただきます」と言い視線を合わせ微笑む。  ああ……はじまりの朝、その笑顔が見られる幸せが愛おしい。  そう思いながら、目玉焼きをトーストの上に乗せケチャップをかけて大胆にかぶりつく。その様子をドキドキしながら見つめる。 「……見つめられてると食べにくいな」 「ごめん、口に合うか気になって」 「美味しいよ、とても。でも怜の方がもっ……」 「正海!それ以上は言わないで、恥ずかしくなる」 何を言うか察した怜はその場に立ち身を乗り出すと正海の唇へ人差し指を立て眉を下げ笑い唇を尖らせる。 「残念だな……なら、今夜愛を叫ぼうか」 「覚えてくれてたんだ?」 「当然だ。今日は番になって一年、祝おう」 「なら、とびっきり甘い夜がいいな、正海」 「極上のスイートルームを用意しよう」 「へぇ、さすが御曹司様!今夜楽しみにしてる」  そんな甘い会話を弾ませながら朝食を食べ終えるとそれぞれ仕事へ向かった。  そしてこの時がやって来た。迎えに行くと言うので、怜は仕事終わりに事務所の近くのカフェで待っていた。  暫くして一台の白いリムジンが止まった。 ──リムジンと言うだけでも目立つのに、さらに白い色味ときたら悪目立ちもいいところだ。 怜は辺りを見渡しリムジンのドアが開いたその一瞬に車内へと乗り込む事に成功。 「ちょっと、何この車! 目立ちすぎ」 「御曹司である俺のかわいい番にはこれくらいがお似合いだ」 正海は誇らしげに笑みを浮かべ自己完結するように頷く。そうだ、正海はこういう奴だ。自画自賛、自信過剰……そして恋人を猫可愛がりする──これは最近気づいた事だ。 そんなこんなしてると、車はとある場所に着いた。それは、今朝言っていた「極上のスイートルーム」という名の美禅グループが経営するホテルだ。 「ここって……」 「俺が経営を任されてるホテルだ」 「……立派だな。でも、スイートルームなんて高いんじゃ」 「ノープロブレム、俺を誰だと思ってる?」 「お、御曹司……?」 「そう。で、怜の為ならスイートルームくらい如何様にも」 正海へそう言って微笑み、車を降りると後ろのドアを開けて降りるようエスコートする。  そのスイートルームに案内されると、その空間には間接照明として柔らかいオレンジの光が点在し、ムーディーな雰囲気を醸し出している。さらにキングサイズのベッドには赤い薔薇。テーブルに用意されていたワインは20年物で、製造年月日が一年記念の日付のものだ。ワインボトルに運命の赤いネクタイが綺麗に結ばれている。 「すごい……この部屋」 「お気に召しましたか、怜?」 「もちろん!でも、いいのかな? こんな立派な……」  用意してくれた極上のスイートルームというものが、愛とサプライに溢れていて言葉を失う程だった。 「そうだ!ワインに結んであるネクタイ、解いてみて」 「?……うん」  言われた通りワインに結んであるネクタイを解いてみると結び目にひとつのシルバーリングが隠されていた。 「……正海?」 「指輪。番になって今更プロポーズって言うのも変だけど……」  そう、照れながらお目見えした指輪を手に取ると怜の左手を軽く持ち薬指にその指輪をはめる。 「プロポーズ?でも……だって、もう……」  番の契約を交わして1年になるというのに……そう頭の中は嬉しさや混乱が渦巻いている。  そんな中、正海は自分のスーツのポケットからもう1つ小さくて四角い箱を取り出して開け、その中にあったもうひとつの指輪を怜に渡す。 「怜、番として、又、お嫁さんとして生涯俺の傍に居てくれないか?答えがYESならその指輪を俺の左手の薬指へもらえるかな」 「もちろん、よろしくお願いします!」  怜は嬉しそうに両目から大粒の雫を落としながら、迷わず正海の薬指に指輪をはめた。  もちろん──YES.  赤いネクタイが引き寄せた運命の番。  赤いネクタイで結ばれた「心」  ……それは、婚姻の証。 『ねぇ正海、運命って信じる?』  正海は返事の代わりに、怜を抱き寄せ思いの分抱擁をし、腕や手の甲、額、唇へと口付けをした。 ~END~
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