『フタリデヒトリ』

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『フタリデヒトリ』

公汰は困惑していた。 自分の回りにいる女性三人が新年だというのに揃いも揃って着物ではなく水着を着用しているのだ。 「いや、なんで水着なんだよ。」 取り敢えず隣に堂々と立つ莉梨に尋ねてみた。公汰としては露出している肌に身の危険を感じていた。 すると、公汰の視線に気付いたのか、莉梨は何時もと変わらず腕を組んだままニヤリと笑った。 「少年、地獄の元旦は皆、裸で過ごすのだ。それを現世では刺激が強過ぎるからと水着を着ている。少年がお望みなら…」 言い終わる前に公汰は羽子板で殴っていた。ピンポン玉を叩いたように気持ちの良い音がする。 「今年は現世に慣れような。それで、流依。お前もなんで莉梨と同じ格好なんだ。」 莉梨と同じような紐の水着で先程から自撮りを繰り返している妹に尋ねる。おおかた、牛柄の水着を着ていることから察しはつくのだが。 「これ?いいでしょ、今年は丑年だから牛柄のビキニで写真撮って、部屋に飾っておくの。そしたらいつでも痩せてる時の自分を思い出せるでしょ?」 成程、筋は通っている。だが… 「目に悪いから早く済ませてくれ。」 ススス…と、公汰は目に耐えない牛柄水着姿の男に目をやった。一応ゴーグルは付けているものの、髪型と体格で誰なのかは一目で分かる。 「違うんだ西岡君!姉さんが無理やり…!」 その割には嫌がってないのがどうにも怪しいが、人情というもので公汰は司から目を逸らして、その姉の方に目を向けた。 「莉梨に合わせたんだろうけど、アイツ馬鹿だから、放っといていいよ。寒そうだし。」 莉梨と張り合ったのか、わざわざより露出度の高いマイクロビキニを着ている颯に公汰は労いの言葉をかける。 「公汰君は、どっちがいい?」 人形のように透き通る颯の肌。触れれば壊れてしまいそうな美しい彼女ではあるが… 「ごめん、強いて言うならどうでもいい。」 公汰は家の中に戻り、スマホを開く。よく見れば、LINEに通知が来ていた。 「洋介…?」 急いでLINEを開くと、「あけおめ!ことよろ!」の二言が送られてきている。 洋介の事だ、面倒くさがって毎年一月一日にLINEを自動的に送るようにしていたのだろう。それでも、公汰は嬉しかった。 「明けましておめでとう。今年もよろしくな。」と、気付けば既読のつかないはずの相手に返信していた。
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