特別国家公務員「自粛警察」

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 しかし、そうした他人の迷惑顧みない容赦なき取り締まりが功を奏し、あれだけ猛威をふるっていた新型Cウィルスも感染拡大の速度を鈍化、感染者数も一気に減少へと転じ、やがて終息の兆しを見せ始めた。  政府の失策が招いたこの国の悪夢も、ようやく終わりの時を迎えたのである。  他方、それはまた同時に、自粛警察がその役目を終える時でもあった……。  存在意義を失った自粛警察部隊は解体、私達監督官ももとの部署へ戻ることとなり、世の中は何事もなかったかのように、あの頃の平穏な日々を取り戻しつつある。  ……だが、その必要がなくなり、大義名分とともに社会的地位が消滅した今でも、まだ自分達が正義の使者であると信じて疑わない()自粛警察は多い。  無論、今は以前のように傍若無人な振る舞いをなせば、それはただのクレーマー以外の何物でもなく、軽犯罪法や迷惑防止条例に触れる犯罪者である。  なのに、そのことが理解できず、今度は自らが逮捕されたり、名誉毀損で訴えられる者達が後を絶たないのが現状だ。  一度味わってしまった正義を振りかざす高揚感は、麻薬のように蠱惑的な快感を脳内に刻みつけ、けしてその刺激を忘れさることはできないのだ。  もしかしたら、この〝正義感〟という代物はウィルス以上に厄介で、その蔓延を押さえ込むのはいたく難儀なことなのかもしれない……。  今日も新聞の片隅に掲載された()自粛警察逮捕という記事に、私は賑わう朝の喫茶店でモーニングセットのコーヒーを啜りながら、ふとそんなことをそこはかとなく思っていた。               (特別国家公務員「自粛警察」 了)
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