特別国家公務員「自粛警察」

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「無礼な! 貴様! 自粛警察だな! 覚えておけよ! わしにこんなことをしてタダではすまさないからな!」  無論、厚顔無恥なベテラン議員の大先生は、そんなもの屁とも思わず、政治権力を使って潰してやると、ヤクザものまがいな脅しをかけて黒塗りの高級車で去ってゆく。  だが、時代遅れな大先生は、SNSによる恐ろしいまでの拡散力と、自粛警察をはじめとする正義感に酔いしれた大衆の熱狂を甘く見ていた……。  瞬く間にこのスキャンダルは全国民の知るところとなり、彼の事務所にも党本部にも抗議の電話が殺到、あまりに膨大な抗議でホームページもSNSも閉鎖され、この我慢を強いられる時勢に殺伐とした精神状態の人々の中には、議員の事務所や実家に投石をしたり、真っ赤なスプレーで落書きする者まで出る事態に発展した。  いや、本人だけでなく、その親族はいうに及ばず、支持者や擁護する者までも迫害を受けるほどのひどい有様だ。  翌日の朝、強気に「法的手続きに出る!」などと言っていた議員も、その夜には土下座する勢いで謝罪会見を開くこととなり、その翌日には離党届け、さらにその翌日には議員辞職、最終的には政界引退にまで追い込まれた。  この一件以降、それまでは頻繁に行われていた議員達の会食が、滅多に開かれなくなったのも自然の成り行きであろう……ものわかりの悪い大先生方も、さすがにこの二の舞となる恐ろしさはよーく理解したに違いない。
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