1・『遅刻したマッチ売りの少女』

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

1・『遅刻したマッチ売りの少女』

月にほえる 千年少女かぐや 大橋むつお 時   ある日ある時 所   あるところ 人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫                                  ジーコ……ジーコ……とネジを巻く音がして、オルゴールのメロディーが拡がる。曲目は「月の沙漠」 幕が開く。舞台には何もない。赤ずきんが手に四角いバスケットを持ち、ニコニコとオルゴールの音色に合わせてクルクルとまわっている。オルゴールのネジがゆるんで、ややななめの角度(少し後ろ向き)でとまる。キッと顔だけ正面に向ける……その顔は、もう笑ってはいない。 赤ずきん: ……遅い! 上手から、マッチ売りの少女、マッチとケーキの入った丸っこいバスケットを手に駆けてくる。 マッチ: ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。ごめん、ごめんね。 赤ずきん: 何してたんだ。あたし、ばあちゃんの世話でいそがしいんだからね。だいいち時間指定したのはそっちの方だろが! マッチ: ごめんね。バイト遅くなっちゃって、相方の子が急に辞めちゃったもんだから、ちょっと大変だったの。 赤ずきん: まだマッチ売りのバイトやってんのか? マッチ: ……うん……ごめん。 赤ずきん: なにかほかにあるだろ。もっと手軽で時給のいいやつ。 マッチ: そんな…… 赤ずきん: オッサン相手にあやしげなことをしろって言わないけどさ。マックとかケンタとファミマとか普通のがあるだろが。  マッチ: わたし、これしか能がないから……ごめんね。 赤ずきん: ……それって、あんたのトレードマークでもあるんだろうけど…… マッチ: ごめん…… 赤ずきん: 何度もごめんていうのはよしな、もう十回くらい言ってるぞ。 マッチ: うそ……七回だよ。 赤ずきん: おまえのそーいうところって、しめ殺したくなる! マッチ: ごめん…… 赤ずきん: で……なんなんだ、用は? マッチ: あの……先月転校してきた…… 赤ずきん: え? マッチ: あんまし学校に来ない子。 赤ずきん: あ、ああ、かぐや姫! マッチ: すごい、名前憶えてんだ! 赤ずきん: あたりまえだろ。 マッチ: わたしなんか、思い出すのに商店街一周しちゃったよ。 赤ずきん: なに、それ? マッチ: ほんやさん、そばやさん、やおやさん、さかなやさん、くぎやさん、かぎやさん、……かぐやさん。 赤ずきん: しめ殺したろか! マッチ: ご、ごめん!
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!