1・『遅刻したマッチ売りの少女』

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月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・2 『そのかぐやさんになんの用?』 大橋むつお 時   ある日ある時 所   あるところ 人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫 赤ずきん: で、そのかぐやさんになんの用? マッチ: ようす見にいこうかな……とか思ってえ。 赤ずきん: ……ようすか。 マッチ: わたしも、どっちかっていうと、不登校になりやすい方でしょ。だから人ごとと思えなくて…… 赤ずきん: ……一人では行く勇気がない? マッチ: うん。ついてきてくれないかなあ……赤ずきんちゃんだったら、オオカミさんのいる森でも平気で行けちゃったりするでしょ。メルヘン界一番のかくれマッチョだもん。 赤ずきん: わたしは和田アキ子か!? マッチ: ……で、ついてきてくれないかな? 手作りケーキとかも持ってきたんだ。 赤ずきん: あたしは食わないぞ。 マッチ: ええ!? 赤ずきんちゃんにも食べてもらおうと思って、赤いイチゴクリームいっぱい使ってつくったのに…… 赤ずきん: 泣くな! ちょっとだけなら食ってやるからさ。 マッチ: ありがとう、やっぱり赤ずきんちゃんだ。根は優しいんだよね。やっぱり赤ずきんちゃんにお願いしてよかった。赤ずきんちゃんだったら、きっときいてくれると思っていたんだ。わたし昔から赤ずきんちゃんのこと大好きだったから。 赤ずきん: あのな、とってもうれしいんだよ。頼りにしてくれて。そいで、不登校のかぐや姫に気を配ってくれるのも嬉しいよ。クラスで、かぐやのこと気にかけてんの、マッチ売りの少女、おまえだけだもんな。 マッチ: ありがとう、赤ずきんちゃん…… 赤ずきん: その「赤ずきんちゃん」てのなんとかならないか。 マッチ: え……? 赤ずきん: おまえのアクセントだと、赤どきんちゃんて聞こえるんだよ。あたし、アンパンマンのキャラクターじゃないんだからな。 マッチ: ……わたし、地方の出身だから、まだアクセントおかしいのね…… 赤ずきん: 傷つくなよ、こんなことで。それにさ、少し長いんだよ、微妙に「赤ずきんちゃん」てのは。もっと気安く、フランクにさ…… マッチ: じゃ……赤ちゃん。 赤ずきん: ズコ……! マッチ: だめ? 赤ずきん: ま、いいか、赤どきんちゃんより…… マッチ: あの……わたしの呼び方も……「おまえ」って呼ばれると、ちょっと言葉がきついの…… 赤ずきん: かもな、いちいち「マッチ売りの少女」ってのも長いしな……じゃ、マッチだ。どうだ、かっこいいだろ? マッチ: マッチ……うん。気にいっちゃった。さすが生徒会長! 赤ずきん: じゃ、そろそろ行くぞ。 マッチ: うん。あ、こっち。こっちだよ…… 赤ずきん: たしか月ヶ丘の方だよな。 マッチ: うん、こっちの路地から行くんだ。 赤ずきん: 行ったことあんの? マッチ: おう、担任の先生と。 赤ずきん: 金八郎と? マッチ: うん、家の前まで行ったんだけど…… 赤ずきん: 閉じこもって出てこなかった……とか。 マッチ: うん……二回行ったけど、二回とも留守だった。 赤ずきん: そっか、留守じゃしょうがないわね。 マッチ: ……っていうか、家がなかった。
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