序の巻 あたしが忍者だとバレた日

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 女湯の脱衣場より絹を裂くような女性達の悲鳴が聞こえてきた。あたしは慌てて脱衣場へと走った。滑るタイルの床でも滑らないように走ることは無意識に出来てしまう。  脱衣場のガラス戸を開けると、そこにはビデオカメラを持つ女が一人、その足元には長髪の(カツラ)が落ちていた。あたしは瞬時に女装した男であると見抜いた。盗撮野郎は許さない! と、あたしが考えた瞬間に盗撮野郎は踵を返して脱兎の如く逃げ去ってしまった。 許してはおけない! おそらくはあたしのフルヌードもビデオカメラの中に収められているだろう。あたしのため、いや、ここにいる女性達のためにも破壊しなくては!  あたしは盗撮野郎を追いかけることにした。服を全部着ていては間に合わない! スポーツブラとパンツのみの水着スタイルで、あたしは追跡を開始することにした。 後は忍者と言えばトレードマークのマフラー、忍者がつけるマフラーはお洒落でも防寒の用途でもなく、風になびかせて風力を常時チェックすると言う役割がある。なびきは軽い、わかりやすいぐらいに冬が終わったばかりに吹く冷たい春風だ。銭湯の前はまだ春先と言うこともあり肌寒い。 しかし、全身に鳥肌が立とうとも寒い寒いと弱音を吐くことは許されない。 あたしは回りを見回して盗撮野郎を探すが、姿が見当たらない。こんな暗がりの道路では見えないのは当たり前だ。あたしはヒョイと軽くジャンプをして電信柱の頂点に登り、盗撮野郎の姿を探した。 「いた!」 盗撮野郎は脱兎の如く必死に逃げ走っていた。あたしはそれを追いかけるために電線の上を素早く走るのであった。  数分後、盗撮野郎は公園のベンチに座りビデオカメラのディスプレイを開き、戦利品のチェックを行っていた。 公園の街灯の上に立ち、その下衆なチェックをする光景を確認したあたしは入浴の際に髪の毛を纏めていたヘアピンを引き抜き、カメラに向かって投げつけた。ヘアピンが夜の空を割き盗撮野郎のカメラに突き刺さった。カメラに突き刺さったヘアピンからビリビリと稲妻が迸る。 「のあっ!?」 あたしは電灯の上からスッと下り、盗撮野郎に怒鳴りつけた。 「そこの変態! すぐに自首しなさい!」 盗撮野郎はあたしの声に気が付きキョロキョロとした。 その瞬間、あたしは顔を隠していないことに気がついた。慌ててマフラーで顔を巻き、隠す。盗撮野郎はあたしの姿を見つけるなりに叫んだ。 「お前も変態じゃないか!」 下着姿に顔を隠すように巻いたマフラー…… 変態だと言われると否定は出来ない。だが水着の露出と同じと考えると恥じる必要性はゼロだ。 それを抜いて考えても盗撮野郎に言われたくはない。 「う、うるさい! 女湯に女装して入って何がしたかったの!」 「せ、性欲を持て余していたんだよ!」
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