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翌朝、朝食を食べに台所に訪れると、兄はまだ壁に張り付けになっていた。影縛りから脱出出来ないのだろうか……
「なぁ、影に刺さったクナイ抜いてくれね?」
あたしはその言葉を無視し、台所のテーブルに就いた。台所では母がニコニコ顔で目玉焼きを焼いていた。いつもならテーブルで新聞を読んでいるはずの父の姿はそこにはなかった。
「おはよ」
「おはよう、お父さんは?」
「今朝から与党本部でお仕事。何でも今日は政府のお偉方に呼ばれてるみたいなの」と、言いながら母はテレビを点けた。ニュースは本日行われる政権与党の民自党の総裁選の話題で持ち切りであった。
「ああ、あいつのお母さんの」
「なんか凄いわねぇ、環境ビジネス大臣なんて『お飾りの仕事やってますアピール』の大臣かと思ってたら本当に仕事してるの。トントン拍子に功績あげて、ついには総裁選の筆頭候補。現総理の二期目をひっくり返すんじゃないかって」
「流石に無理でしょ? 現職の総理も出るんでしょ?」
「そうでもないのよ、現職総理はおカネの問題でちょっとあるの」
「叩けば埃ってやつ?」
「叩けば有毒ガス。外国からおカネ貰ってるのも間違いないって。技術研修生を招いてる国を調べて御覧なさい」
「最悪」
「そんなわけで幹事長が人気取りのために白羽の矢を立てたのが、大宮穗積。おカネに関してはクリーンで、国民からの人気もあるから、今のうちに支持率アップのために幹事長が総裁選に出ることを勧めたらしいわよ」
「それじゃあ、勝っちゃうの?」
「今のままでいけば、今日の夕方には日本憲政史上初の女性総理誕生よ」
「ふーん。そんな凄い日なんだ、今日。あいつも総理の息子かぁ。ところでお母さん、詳しいね? お父さんがこんなにペラペラ喋るとは思えないんだけど」
「ソースは美容院で読んだ実話系の雑誌よ。本当に実話が書いてあるわ」
「お母さん? 実話系の雑誌の実話は『実のある話』の略で『真実の話』じゃないんだけど……」
「あら、でもよく当たるのよ?」
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