急の巻 忍者に生きるか、青春に生きるか

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 泰司はスマートフォンで何かを打ち込み始めた。友人内のSNSで愚痴を零しているのだろう。 「お、蘇我から返信きた」 あたしの全身の毛が逆立った。今や彼氏となった男の名前を聞けば当然である。 心拍数を抑えなくては、あたしは冷静を装った。 「お、さーすが人格者。先生方の仕事なんだから受け入れてやれってさ」 剛臣らしい、彼氏の言う人格者的な発言を前に冷静さが途切れたあたしは思わずに赤面してしまった。 「熱?」 泰司がいつの間にかあたしの目の前に立ち、額に手を当てていた。 普段なら組み伏せているところだが…… いかんいかん、忍者としてこれは命取りだ。しかし、あたしは昨日で忍者をやめる宣言をしている。これが普通の女の子のあるべき姿だ。あたしは狼狽えつつもニッコリと微笑んだ。 「ば、馬鹿! 違うわよ!」 泰司はスマートフォンを眺めながら、温め終わったピザに舌鼓を打っていた。すると、一口ピザを喰んだ瞬間に泰司は唖然としフリーズしてしまった。 「おい、蘇我と付き合ってるのか?」 剛臣がSNSのやり取りで「古賀に告白OKされた」とでも返信したのだろうか。 「うん、昨日OKした」 「……そうか、あいついいヤツだしな。羨ましいなぁ…… 蘇我の奴。小学生の時点で彼女出来て、さぞや楽しい中学高校生活送るんだろうな。いいなぁ」 「あたし、忍者の家に生まれて…… しまいには小学校生活最後の一年間はアンタの監視なんて青春とはとは縁遠い日々送ってきたからね。その分、中学入ってからは彼氏と一緒でいい青春送れそうで目の前が光輝いて見えるわ」 「……そうか、よかったな。ウメェな、このピザ…… しょっぱいや」 近頃は冷食のピザのチーズの塩分も多めなのだろうかあたしはそんなことを考えながらベランダの外より本日の刺客と記者の人数を確認した、ゼロだ。 GPS衛星の付喪神の通知も珍しくゼロ、今日は悠々と登校出来るということであった。 今日は刺客も記者も一足早い春休みをとっているのだろうか。
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