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その時、教室の扉が蹴り開けられた。入ってきた男は迷彩服を身に纏っていた。顔にはペイズリーのバンダナマスク、その手には拳銃が握られていた。
あれ? 何かのドッキリ? 小中学生が授業中に妄想する学校にテロリストが襲撃してきた的なドッキリ? 近頃は学校も下らないこと考えるのね。と、あたしが思った瞬間、男は天井の照明に向かって拳銃を一発放った。
ぱん と、乾いた地味な音が教室に響いた。刑事ドラマで聞くような派手な音ではない、乾いた地味な音こそが本物の発砲音である。
テロリストは叫んだ。
「いいか! よく聞け! この小学校は我々、赤牙が占拠した! 貴様らは人質だ!」
いきなりのことに皆は動揺し叫び狂った。テロリストはぱんぱんぱんと床に向かって三発銃弾を打ち込んだ。床の銃痕からもうもうと白い煙が立ち昇る。
その瞬間、騒がしかった教室は一気に静まり返った。
それから続々と武装したテロリストが教室に突入してくる。
リーダーと思われる男が耳に入ったインカムで指示を受けているのか「はい、はい」と呟いていた。
「全員拘束する! 全員並んで手出せェ!」
あたし達は教室の後ろに並ばされ、手を出すように促された。下っ端と思われるテロリストがあたし達の手首に結束バンドを巻いていく。
結束バンドは拘束アイテムとしては使える部類だが、農業用結束バンドなのが即席に行われた感が強い。あたしの隣にいた黒夜叉が結束バンドを巻かれたところで交渉を行った。
「私はこの子たちの教師です。私一人が人質になりますから、この子達は開放してはくれませんか?」
テロリストは宣った。
「お前、教師っぽくねぇな? あ? 教師だったら真っ先に自分だけは逃してくれって泣き喚くもんだろ?」
黒夜叉の教師に対するリサーチが足りなかったのか、このテロリストが教師に持つ偏見で凝り固まっているのだろうか……
「他のクラス? 音楽室にいたババアなんか生徒見捨ててコッソリ逃げようとしたぜ?」
最低ね、音楽教師。あたしは心の中で溜息を吐いた。
「ビンタしたら泣き喚いて動かねぇの。自分はオーケストラに入る予定だった、自分はこんな音楽の才能もないガキ共に音楽なんて教えていい存在じゃないとかって宣いやがる。仕事抜きで殺してやりたかったよ!」
テロリストに拘束された後もこう言える音楽教師のメンタルの凄さに呆れの意味を込めて驚嘆してしまった。
あたし含め、教室の全員が拘束されてしまった。次にテロリスト達はあたし達の机やロッカーを漁り始めた。出したものはスマートフォンや携帯電話だった。外部との連絡を絶つつもりだろうか。
「おい! ポケットにスマホやケータイ持ってる奴は出せ! 隠しやがったら殺すからな!」
出せ。と、言われても手を結束バンドで拘束されている以上は出すことが出来ない。このテロリストは「どこか抜けている」と、あたしは思った。
それを証拠にあたし達の身体検査も行わない。忍者のあたしからすれば「下の下の下」の輩だ。銃という殺傷能力を得て勘違いしているお遊びテロリストに過ぎない。クラスメイトの目がなければ五秒程で無力化、制圧出来る程度の相手である。黒夜叉も多分同じことを考えているだろう。おそらく、他のクラスも人質になっているに違いない、ここで拘束を外して制圧するよりは「目的」を探る方が先だと考えたあたしは「見」に徹し、静観することにした。
テロリストの耳に入ったインカムよりノイズ混じりの指示が聞こえる。忍者の耳であれば、相手の耳に入ったインカムの音を聞くことなぞ容易い。
〈校長室、確保。目的も同時に確保。拘束完了〉
「ラジャー。目標のスマホで拘束した姿を写真メールで送れ。投票中は待機、待機中に辞退宣言をしないようなら痛めつけた姿の写真だ」
〈ラジャー。辞退しないようなら、ぶっ殺した上でこのことをマスコミにバラまくだけだ。テロには屈さないなんて綺麗事だ、屈しようと屈さなかろうと叩くやつは叩く、叩く方は俺達の味方だ、気にすんな〉
「オーバー」
〈オーバー〉
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